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第20話

 ** 「レスター様。マシューを連れてきました」  ライアンに続いて、寝室に入ると、レスターはベッドに横たわっていた。 「ああ……久しぶりだな。マシュー」  そう言って、身を起こそうとするレスターに、ライアンがすかさず歩み寄り、その背中を支える。  レスターが言った通り、彼の姿を見るのは本当に久しぶりで、マシューは一瞬言葉を失ってしまう。  白のウェアウルフの寿命は、他の狼よりも長い。  レスターの年齢は、はっきりとは知らないが、もう200歳近くになると聞く。  最後に彼を見たのは、何年前だっただろう。  雄々しく、強く、統率力があり、仲間達からの信頼も厚い。屈強な体を美しい白の毛皮で纏う姿は、群れの長になるべくして生まれてきたと、誰もが思い、憧れていた。  それが、身体を悪くして寝室に引き籠っていた数年の間に痩せ細り、ヒトの形を保っていられずに、マシューの前で、普段は簡単に見せる事のない獣人の姿を曝している。  美しかった白の毛並みは、艶を失い、張りもない。  ライアンの手を借りながら、黒のレザーで覆われた重厚感のあるヘッドボードに背を預ける姿は頼りなく、現役時代の彼と同じ狼だとは思えない程だった。  それでも、こちらに視線を送る灰青の瞳だけは、あの頃と変わらず鋭くマシューを射抜く。 「そんな年寄りを憐れむような顔をするな。私はいたって元気だ。お前の父親はいつも私を病人扱いして困っておるがな」 「あ、はい。………い、いえ……」  声も身体を悪くする前と変わりなく、冗談混じりに年寄り扱いするなと暗に咎められて、マシューは慌てて頭を垂れ、レスターの次の言葉を待った。 「お前を呼んだのは、折り入って頼みたい事があるからだ」 「はい」  仕事からも退き、イアンを後継としてからは、彼の身の回りの事は全てライアンが任されている。  ライアンではなく、自分に頼みとは、いったい何だろう。久しぶりに会う長の命令は、マシューには検討もつかなかった。 「アーロンを、連れ戻してほしい」 「……え?」  予想していなかった言葉に、マシューは思わず小さく声を漏らし、頭を下げたまま目線を上げた。  その事は、マシュー自身も気がかりではあったが、レスター直々にそれを命じられるとは予想していなかったのだ。 「イアンの番候補を連れて家を出た不良息子を、マシュー、お前が 迎えに行ってくれ」  ウェアウルフの長であり、この家の当主の命なのに、マシューはすぐに返事をする事ができなかった。  ──『放っておいてやってくれ』  昨夜、イアンにそう言われたからだ。

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