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第23話

 もしも、ノースシストで正体がバレてしまったら、アーロンは無事ではいられない。延いてはその事実が広まり、狼狩りはこのイーストシストにまで飛び火するだろう。  レスターは、息子のことだけでなく、一族全体に影響する事も恐れていた。 「トレイターは、Ωの青年をどこまででも追いかけて捕まえると息巻いているが、あの男だけに行かせたら、アーロンの身に危険が及ぶような気がして仕方ないのだ」  レスターは、窓の方をちらりと一瞥し、「あの男は、何を考えておるか分からないからな」と言葉を続け、表情を曇らせた。 「マシュー、お前はイアンの執事だが、アーロンのことも、あれが幼い頃から、よく面倒を見てくれていた。きっとお前の言う事なら少しは耳を傾けるだろう」  確かに、イアンのように専属の執事を付けていないアーロンには、他の者が行くよりも、マシューが行って説得するのが効果的だろう。 「マシュー、お前にしか頼めないのだ。……この老いぼれの頼みを聞いては……くれないか」  長い間起きて喋るのは、身体が辛いのだろう。レスターの声は時々掠れ、言葉の途中で何度も苦しそうに息を吐く。 「っ、……旦那様……」 「トレイターと共に、二人を……追い、Ωの青年をマンテーニャに渡し、……アーロンを……連れ帰ってくれ」 「マシュー、答えは“yes”以外はないだろう」  主人に対して、使用人が発する言葉はそれしか無いはずだという意味を込めてライアンが釘を刺す。  それはマシューも十分理解している。ウェアウルフ族の長の命令は絶対だ。ティカアニ家に仕える身としては断るわけにはいかない。  それに、レスターの言っている事はもっともで、アーロンの身を案ずるのはマシューも同じだった。 「……かしこまりました。アーロン様をお迎えに行ってまいります」  **** 「車を玄関前に回しておいてくれないか」  使用人を一人連れていって良いと許しをもらい、マシューは部下の中で一番信頼のおける青年を選び、車のキーを手渡した。  昨夜、二人は着の身着のままで出て行った。何か着替えを持っていった方が良いかもしれない。  迎えに行くための準備を頭の中で考えながら、マシューは一旦、自室に向かう。  ──イアン様は、もうお目覚めだろうか。アーロン様をお迎えにいく事も伝えておかなければ……。  そう頭を過った時、自室のドアの前に背の高い人影を見つけて、マシューは急ぐ足を思わず止めた。 「……やぁ、マシュー。アーロンを迎えに行けと言われたんだって?」 「い、イアン様……」  

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