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第27話
「何を考えている?……」
「……え」
後頭部に回った手に引き寄せられて、そのまま腕の中に囲われた。
「大丈夫。何があってもお前だけは守るから」
頭を抱きしめられて、イアンの逞しい胸に顔を埋めた状態で、聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「だから……お前だけは、ずっと私の傍にいろ。死ぬまで離れる事は許さない」
「…………」
胸の奥から熱い感情が込み上げてきて、思わず嗚咽を漏らしそうで、抱きしめられたイアンの胸にぐっと顔を押し付けた。
それでも堪え切れなかった。イアンのシャツをじわりと濡らしてしまう涙を。
こんなに嬉しい命令は、経験したことがない。
嬉しくて、涙するなんて事が、今まであっただろうか。
両手で頬を包まれて、涙でぐしょぐしょに濡れた顔を覗き込むイアンの瞳に、また囚われる。
もうずっと前から、初めて会った時から、この瞳に囚われている。これからも、ずっと死ぬまでこのままで、囚われ続けて良いと、約束してくれたのだ。──主人に仕える執事として。
また一つ、大きな雫がマシューの瞳から零れ落ち、イアンはその頬を指先で拭う。
「返事はどうした?」
「…………As you wish.……」
促され、嗚咽を堪えながら答えると、イアンはフッと小さく笑う。
「お前は、いつも同じ返事をする」
だけど、気の利いたセリフなどマシューの中には用意されていない。これ以外に何と言えばいいのか分からない。
「マシュー……私は、長を継ぐ者は白の血統を持つウェアウルフでなくても良いと思っている。例えば、これから生まれてくるアーロンとアンジュの子供が成長して、長になる覚悟ができたなら……」
イアンの言葉に、マシューは涙に濡れた目を見開いた。
「そっ、……それは……無理でしょう? 今の一族の中で長を継ぐのは、貴方以外は考えられません」
白のウェアウルフが長を継ぐのには、他の亜種よりも強く、長く生きていられるという理由がある。
それにマシューは、イアンが長になるその姿を、ずっと夢見てきた。この人以外長を継ぐものはいない。誰もがそう思っている。
「私は、何も次の長を継がないとは言ってない」
そう言って、イアンはマシューの髪に触れる。優しく愛おしむように赤茶色の毛を指先に巻き付けて口づける。
「この美しい色も、長い時を経て受け継がれ、その時その時を必死に生きてきた証だろう? 他のウェアウルフ達もそうだ。白の血統が特別なのは他の者より少しだけ長く生きていられる事だけだ」
「……で、でも……」
言いかけた言葉は、イアンの指先に唇をそっと押えられ、遮られた。
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