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第29話

 その一言がマシューの胸の奥を貫き、一瞬心臓の動きが止まったかのように感じた。  息ができないくらいに苦しくて、だけど次の瞬間には、壊れてしまいそうなくらいに、速い速度で胸が鼓動を打ち始める。  身体を抱きしめるイアンの腕に力がこもる。 「“ 好き”という言葉だけでは、この気持ちを伝えきれない」  そう囁いて、イアンはまた更に力強くマシューの身体を抱きしめた。 「愛してる」 「…………」 「愛してる」 「…………」  イアンが言葉を繰り返す度に、自らに課したマシューの心の制約が解けていく。 「まだ足りないか?」 「……っ」 「なんとか言え、マシュー」  顎を掬い上げられて、灰青の美しい瞳がマシューを優しく見つめた。  いつものような、圧倒的な王の眼差しとは少し違う。  それでも、この瞳には逆らえないとマシューは思った。  さっきとは、また違う想いの涙が溢れてくる。  これは、嬉しくて……そして、幸福な涙だ。  ────As you wish.  いつもの言葉は、今この時に使うのは、ふさわしくない。  なら、なんと言えばいいのだろう。  マシューは、もう答えを分かっていた。ただ口にするのには時間がかかる。 「……愛してます……私も……」  やっと言えても、声は掠れ、自信なさげに小さく震える。一生、口に出さないと思っていた言葉だったから。  ──それでも……ちゃんと応えたい。  イアンが心を込めて、伝えてくれた気持ちに。  今までずっと、ひた隠しにしてきた本当の想いを、俺もお前に伝えたい。  美しい白銀の髪に指を絡め、口づけて、もう一度、今度ははっきりと想いを告げた。 「ずっと昔から、初めて会ったあの時から、お前の事が好きだった」  忠実な執事としてでなく、幼馴染でもなく、親友としてでもなく。 「ずっと、お前を愛してた。イア……ン」  最後の声は、唇を重ねられ、イアンの咥内へ消えていく。  挿し入れられる舌を迎え入れ、それに応えて甘く絡め合う。  何度もキスの角度を変えては、見つめ合い、そしてまた唇を重ねる。 「あぁ……どうしよう。嬉しくて堪らない」  イアンは、灰青の瞳を細め、赤みがかった茶色いマシューの髪に指先を絡め掻き混ぜる、  そうしながら、止まないキスの雨をマシューの顔中に降らせた。

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