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第3話 僕のヒーロー

 浅加裕通(あさかひろみち)。  ただのサラリーマンに見えた若葉のヒーローは、実は全く違う職に就いていた。 「警察官?」 「そう。警察官」  になっていたのだ。 「あの学ランヒーローが……」  まさかの本物のヒーローになっていた。  それを聞いた若葉は、裕通に対して尊敬の目を向ける。 「ハハッ。なんだよ、学ランヒーローって」 「あっ、ぼ、僕の中では浅加さんの記憶は声と学ランの後ろ姿だけだったから……それで……」 「あー、なるほどな。あの時は顔を隠されてたからな……」  そう言って、裕通は若葉を近くの公園へと連れて行き、ベンチに座らせた。  そして、そっと静かに若葉の目の前にしゃがみ込み、怪我をしている手首に優しく触られてきた。 「悪かったな……前も今も助けるのが遅くなって……」 「い、いえ。別にそこまで痛くないから大丈夫……です」  と言ったが、実は痛かった。  あの男。若葉の想像していた以上に強く掴んで来たようで、今になってジンジンと腫れて来てしまっていた。  それを見て、裕通は申し訳なさそうに若葉に話す。 「……直ぐに助け出す予定が、途中無線が入って犯人が一人じゃない事がギリギリで分かったんだ。それで、君が車に乗せられるまで泳がせる事になったんだ……」  そう言って、裕通は「ごめんな……」と言ってくれた。 「そうなんですか……。でも、そうしないと確実に逮捕できなかったわけだから仕方ないですよ」  と、若葉はそれをすぐに受け入れた。  だって、そうしないと現行犯として捕まえられなかったと素人でも聞いて分かる。 「でも、なんで僕が拉致されるって分かってたんですか?」  それが若葉には不思議だった。  裕通の口振りからすると、前もって知っていたように聞こえる。 「先月。会長宛てに手紙が届いたんだ」 「お爺様に?」 「あぁ。お前の身内に危害を加える。それが嫌なら十億用意しろってさ」 「うわっ、ベタなやつ……」 「そう。でも、会長には身内が多いからな。絞るのに時間が掛かった」 「そうですよね。愛人の子もいるみたいだし……」 「でも、俺は君が確実に狙われるって思ってた」 「え……?」 「君の容姿がそうさせる」 「?」 「まぁ、分からないならいいんだけどな。君が無事で良かった……」  そう言って、裕通は若葉の頭をクシャッと撫でて家まで送ると言ってくれた。  その言葉を聞き、若葉は咄嗟に裕通の腕を掴んだ。 「もう、会えない?」 「え……?」 「僕、前に助けてくれた時からずっと浅加さんを探してた……。この間、駅のホームで僕の隣に立った時あったよね? 気付いてなかったと思うんだけど……その時から僕、ずっと……」  顔は見たことが無い。声と背中のシルエットだけで探していた。  会えないと思った。もう二度と……。でも、またこうやって会えた。 「お願い! また僕と会って!」  そう叫ばずにいられない。 「……バレてたか」 「え……?」 「隣に立った事。バレてないと思ってた……」  裕通はそう言うと頬を赤く染め、照れながら言う。 「昔の君が、どんな風に成長したのかを写真じゃなくてちゃんと見たかったんだ……まさか、気付かれてるとは思わなかったけどな。プロ失格」 「そんな……」 「すげー成長しててビックリしたよ。綺麗になった……」 「え?」 「えっと……男にそんな事を言われて……つーか、男に綺麗になったとか言う言葉も違うよな。はは……でも、率直にそう思った」 「……浅加さん」  その言葉はたぶん、他の人間に言われたら響かなかったと思う。けれど、裕通に言われたから若葉の心にすんなりと届いたと思う。 「今度、飯でも行くか?」  その言葉に、若葉は手首の痛みが一瞬で消え、今までに無い喜びが込み上げ、元気良く返事を返していた。  そして、ここから僕とヒーローとの関係が縮まったのだった。

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