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第41話
奎吾の態度がいつもと変わらなかったのにはほっとしたが、困ったことに希には夕べの記憶がはっきりと残っていた。キスされて、乳首を弄られてイくなんて、嘘だろうと思いたい。しかも、相手は奎吾だ。
いったい奎吾がどうして希にそんなことをしたのかは想像もできないがーー。
「全然嫌じゃなかったんだよなあ・・・・・・」
希は、はあ~っと深いため息を吐くと、便座に腰を下ろした。柏木、と自分の名前を切なげに呼んだ奎吾の声が甦って、じわっと頬が熱くなる。
「なんだよこれ・・・・・・」
パンツの中身は気持ちが悪いが、まさか奎吾に着替えを借りるわけにもいかない。いつまでもトイレにこもっているわけにはいかず、希はおそるおそるリビングへと戻った。
「どうした。腹でも下したか?」
「うん! うん! そんなとこ・・・・・・」
「大丈夫か?」
「大丈夫だって!」
しつこいなとばかりに叫んで、顔を上げたとたん目が合い、希はかあっと赤くなった。自分が挙動不審な態度をとっている自覚はあるが、普通にしなければと思うほどに、普通がどんなだったか思い出せない。案の定奎吾は訝しそうな顔をしている。
「ほら、できたぞ。腹が減ってるんだろ」
何事もなかったような顔をしてなんとか朝食を食べ終え、奎吾の家を辞したのはそれから一時間ほど後のこと。コンビニで着替えのパンツを買い、駅のトイレで着替えた希は、混乱する頭を抱え電車に乗り込んだ。
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