42 / 66
第42話
「柏木どうした、寝不足か?」
「あ?」
希がいつものように社員食堂で昼食を食べていると、うどんの載ったトレーを持った金井が前の席に腰を下ろし、目尻のあたりを指でこすられた。
「だからお前はすぐに触るのやめろ」
「いいじゃん。別に減るもんでもなし」
「お前にそれをされると女の子たちに微妙な笑みを浮かべられるから嫌なんだよ」
「なんだよ、それぐらい」
「それぐらいじゃないだろ」
「ははは」
パチンと割り箸を割って何事もなくうどんを食べ始めた同僚を、希は呆れた目で眺めた。金井は左手でスマホを弄りながら、ずるずるとうどんをすすっている。自分よりも遙かに色事の経験がありそうな同期の友人見ていたら、希はここしばらく悩んでいたことを訊いてみることを思いついた。
「なあ、金井って男を相手に抜いたことある?」
声を潜めて希が訊ねると、金井はうどんを喉に詰まらせた次の瞬間、ぶほっと食べたものを吐き出した。
「おいおい、汚いな。落ち着いて食べろよ」
「お前が言うな!」
金井は希が渡した水を飲むと、周囲の視線が自分たちに集まっていることに気がついた。
「あ、すみません! 失礼しました!」
頭を下げ、テーブルを拭いている希の隣に回り込む。
「おい、お前どういうことだよ」
「どういうことって?」
金井は、希がまだ食べていた昼食のトレーを勝手に返却口に戻してしまった。
「あ! まだそれ途中・・・・・・! 金井!」
ちょっとこいと人気のないほうへと引っ張られる。まだ途中の昼食を奪われ文句を言う希に、金井は自動販売機からコーンスープの缶を買って寄越した。仕方なしに缶の蓋を引き上げ、コーンスープを飲む希を、金井は睨むようにじっと見ている。
「いまのは柏木の話なのか?」
「いまのって?」
「だから男相手に抜いたかどうかって話だよ」
「おまっ! それ・・・・・・っ!」
希は危うくコーンスープを吹きそうになった。
ともだちにシェアしよう!