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第47話
「ねえ、知っていますか? こいつ、父親がいなくて、お袋さんが仕事で忙しい代わりに、年の離れた弟の面倒みてたんですよ。性格もいいし、酒を飲むとちょっとぐだぐだになるけど、そんなんかわいいもんだ。いまは仕事が忙しくて、ここ最近つき合っている女の子はいないみたいだけど、モテないわけじゃない。将来はきっとかわいいお嫁さんをもらっていい家庭を築くんだろうなあ。ねえ、蒲生さんもそう思いませんか?」
「金井お前何言って・・・・・・?」
いきなり関係のない話をし出した同僚に、希は困惑した。
「試してみますか?」
「え?」
「いいですよ。何なら一晩試してみましょうか。知りたいんでしょう? 俺のセックスがどんなんだか」
「セッ・・・・・・! はい・・・・・・っ!?」
普通の会話をしていたのに、どうしていきなりセックスの話になるのか。奎吾も金井も、まるで希の知らないところで、二人だけに通じる話をしているようだった。ひとり会話についていけていない希は、このなりゆきにひどく戸惑う。
「まあ、あんたにその覚悟があるならだが」
金井を見据える奎吾の口元は、笑みのかたちをつくっているのに、その目は明らかに笑っていない。凄みさえ感じる男の美貌に、希は奎吾が本気で怒っているのだと気がついた。
金井は悔しそうにギリと唇を噛みしめた。
希はひとつため息を吐くと、金井の頭をぺちんと叩いた。よくはわからないが、最初に挑発を始めたのは金井のほうだ。
「いまのはお前が悪い。ほら、謝んな。きょうのお前、最低だぞ」
「柏木・・・・・・」
金井は叩かれた頭を手で押さえると、心外だとばかりに捨てられた子犬のような目で希を見るが、希は無視した。
「すみませんでした・・・・・・」
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