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第48話
不承不承頭を下げる金井に、希はよし、と頷いた。そのとき、ガタッとイスを引く音がした。見れば奎吾が席を立ち、財布から抜き出した札をテーブルに置くと、そのまま出口へと向かうところだった。
「蒲生っ! 待てよ! どうしたんだよ!」
「柏木!」
自分の名前を呼ぶ金井を振り切って、希は奎吾を追い店の外へと出る。
「蒲生! 待って・・・・・・っ!」
外は冷えていた。白い息を吐きながら、希は必死に奎吾の後を追う。
「待てって!」
ようやく男の腕をつかんだとき、希はさきほどの金井の無礼を奎吾に詫びた。
「ごめん! あいつ、普段はあんなやつじゃないんだけど・・・・・・っ!」
こちらをちらとも見ない奎吾が怖かった。金井を連れてきた希のことも怒っているのだろうか。
「なあ! こっちを向けよ! 蒲生!」
振り向いた奎吾に腕をつかまれる。え、と思った瞬間、希は奎吾にキスをされていた。やや乱暴とも思える男のキスは、まるで希が自分のものだと思い知らせるかのようだ。
頭が痺れるほどの悦びが希の胸を震わす。これまでキスなど何度もした。奎吾とのキスだって初めてじゃない。でも、違うのだ。奎吾とのキスは、ほかの誰とするキスとも違う。奎吾だけが違う。それがなぜなのかを、希はわからなかった。
「あいつの言うとおりだ。間違いだったんだ」
離れた唇から唾液が透明な糸を引く。奎吾の指が希の唇を拭った。
えっ? それってどういう・・・・・・?
訊き返そうとして、希は言葉に詰まった。なぜだか苦しそうに希を見る奎吾の表情に、胸が締め付けられる。
「お前は、普通に女と恋愛をして、家庭をつくることができる。俺なんかとは最初から関わってはいけなかったんだ」
奎吾は視線を伏せると、希の唇を擦った指をそっと自分の唇に押し当てた。
希は大きく目を見開いた。何かを言わなければと思うのに、言葉が出てこない。
嫌だ、待って。勝手に決めつけないで。
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