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第49話

 頭を振る希を、奎吾は寂しそうな笑みを浮かべて見ていた。その顔を見た瞬間、希は気づいた。奎吾はもう決めてしまったのだ。希の意見など聞かず、たったひとりで。  奎吾の手が希の頭をぽんと叩く。それから男の気配が自分から離れていくのを、希はその場から動くこともできずにただ感じていた。  どれぐらいそうしていただろうか。背後から「・・・・・・柏木」と、ためらいがちに呼ぶ金井の声がした。持ってきたコートを希の肩にかける。 「・・・・・・頼むから泣かないでくれよ」  金井に言われて初めて、希は自分が泣いていることに気がついた。希はごしと目を擦った。  俺はどうして泣いているのだろう。胸がこんなに苦しいのだろう。まるで身体の中にぽっかりと空洞ができたようだ。 「・・・・・・悪かったよ」  金井はどうして謝っているのだろう。普段の希だったら、「そうだよ、全部お前のせいだ」くらいは言っているのに、まるで頭が働かないのだ。  凍えるような夜の闇に、冴えた月が輝いている。

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