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第63話
「前のときは悪かったな」
「えっ。いや別にそんな・・・・・・」
結局あのことがきっかけで奎吾とうまくいったようなものだ。急に気恥ずかしくなって、希はもごもごと口籠もる。そんな希を、金井は何ともいえないような微妙な顔で見ていた。
「あーあ。うだうだ悩んで損をした。結局俺が後押ししたようなもんだ。お前、完全なノンケだと思ってたからな~。こんなんだったら、最初から手を出しときゃよかった」
「えっ! お前、俺のことが好きだったの!?」
金井の言葉に希はびっくりした。
「わ、悪い! まったく気がつかなかった」
焦る希に、これだもんな~、と金井は苦笑した。その表情がふっと真面目になる。
「辞令が出た。四月から大阪だ」
「えっ!」
「せいぜい立て直して出世してやる。そのとき後悔しても遅いぞ?」
不敵に笑う同僚に、希は言葉が出なかった。金井は入社したときからバカを言い合っていた同期だ。その金井がもうすぐいなくなるのだと思ったら、ほんの少しだけ寂しい気持ちになった。金井は希の心を見透かしたように、バンっと背中を叩いた。
「シャンとしろ! 俺に付け入る隙を与えるなよ」
にやっと笑った同僚に、希はうん、と頷いた。
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