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第65話

 男のキスは、希が自分のものだと知らしめるようにも、別の男に気をとられた希を懲らしめるようにも感じられた。 「が、蒲生待ってっ!」  希は男の胸を軽く叩いた。離れた身体を、再びきつく抱きしめられる。 「・・・・・・他の男のことは考えるな」  余裕をなくした声に懇願するように囁かれて、希の身体から力が抜けた。ばかだなあと思う。愚かだが愛しい恋人の背中を、希はぽんぽんと軽く叩いた。 「あいつはそんなのとは違う。単なる同僚で、それ以上でも以下でもない。確かにこれまでずっと一緒だったからさ、多少の寂しさはあるけど、蒲生とは違うよ。俺が好きなのは蒲生だ」  希はきょろきょろと周囲を見渡した。誰も見ていないことを確かめると、男の唇にすばやくキスをした。離れようとした腕を惜しむように引っ張られて、希は笑った。そのとき、希は男の髪にさきほどの桜の花びらがついていることに気がついた。指でつまんで花びらをとった希を、奎吾が不思議そうに見る。 「いこう」  ひらひらと空いた手を伸ばし、奎吾と手をつなぐ。誰かに見られたら、少しだけ恥ずかしい思いをするかもしれないが、そんなことは構わない。 「・・・・・・家に着くまでは、飲むのはほどほどにしとけよ。あまり俺以外のやつに隙をみせるな」  心配性で過保護な恋人に、希はぶっと吹き出した。 END 

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