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4 真也 (追憶)

久しぶりに会ったスーツ姿のその人は少し痩せたように見えた。栄転だと姉に聞いていたが、やはり仕事は大変なのだろう。なのに変わらぬ優しい表情(かお)と声で 「誕生日には何が欲しい?」 と、聞くから咄嗟に 「祐介さん、貴方が欲しいです」 そう答えてしまいたくなった。 一番欲しいものは手に入らない。 「特に欲しいものはないです」 「お前、可愛くないよ。未来のおにーさまが誕生日を祝ってあげようって言ってるんだから何かあるでしょうよ、ん?」 その言葉に心臓を握り潰された。 胸が苦しくて息が出来ない。 「えっ、もしかして、ついに?」 なのに絞り出した声はいつもと変わらない。 そのことが隠したこの恋の長さを、慎也に改めて知らしめる。 「何が?あー、いやいやいやいやそれはお前、言葉の綾だよ」 「何だぁ、あんまり待たせると他の男に取られちゃいますよ。ああ見えて姉貴モテるし」 後ろめたさから、言わなくてもいい事まで言って 「あはは、そう言えば真紀は昔からよくモテてたなぁ」 その答えに傷を負う。 焼付いて消えないのは、制服姿で並んで歩くふたりの後ろ姿。姉の隣にはいつもその人の優しい背中が寄り添っていた。 「祐介さんもモテたでしょ?」 「俺?俺は全然だめ」 そう否定するけれど、色素の薄い茶色の髪とそれと同じ色の少しつり気味な綺麗な目。男にしては色白なその人が『王子様』と呼ばれて、昔から大層女の子に人気があったことを真也が知らないはずもなかった。 「お前こそ文句なしでモテるだろ。デカくなったよなぁ……どっかのモデルみたいだぞ?好きな人とかいないのか?ってか、その手の話し一回も出たことないけど、どうなんだ?」 愛しげに細められた眼差しからは、当然だけれども真也の望むものは全く感じられなくて、その事実が真也を容赦無く痛めつける。 会う度にふとした仕草や言葉のやり取りで傷付いて痛めつけられても…… それでも ーー会わずにはいられない ーー生きていけない だから 痛みが通り過ぎるのをいつものように真也は心を閉じて待つつもりだった。けれど 「いる」 どうしてそんなことを言ってしまったのか。 「えっ?」 聞き返された言葉をなかった事にも出来たのに。 「好きな人、いますよ」 なのに真也は嘘をついた。 ーーただ ーーただその人の心を一度だけでも揺らしてみたくて

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