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第7話

「では本題だ。」  「本題…?」  抱きしめていた身体を少し離し、目と目を合わせる。    「圭が供物としてここに来た事で村人達の信仰は高まり、余に力が出来た。これで天災を遠ざける事が出来るであろう。そなたの役目は終わったのだ。」 「そうなのですか……」  自分の役目は終わってしまった。聡慧様と触れ合うことで溜まった幸せな気持ちが萎んでいく。   「圭が良ければ村にも帰れる。天災が良くなった後に帰れば今までのように辛いことはあるはまい。」  村に帰る……。自分を必要としないあの村に……?   「…自分は……村には帰りたくありません。」  身寄りもない。 今更村で歓迎をされても、村の人の好意を自分は素直に受け取ることは出来るとは思わなかった。 「そうか。」 「はい。」  自分ははっきりとした声で返事をした。 「……村を出て、町の方に行くことも出来るぞ。」  町に行けるのか。甘い物や様々な物に溢れ、活気のある町に。確かに行ってはみたい…。でも自分は……。   「聡慧様のお側にいることは出来ないのでしょうか…?」  自分は聡慧様のお側にいたい。与えてくれた優しさや温かさ、そして……あの激しいまでの熱をまた感じたかった。   「…余の側におるということは、先程のようなまぐわいを行うぞ。」  直接的な言葉で言われ、返事をするのが恥ずかしくなる。でも素直になってよいと言われたのだ。自分はそう言ってくださった聡慧様にしっかりと気持ちを伝えたい。   「聡慧様と会い、お時間はあまり経っておりませんが、お言葉や行動に何度も心が温かくなりました。生きる気力すらも見出せていなかった自分が生きたい…聡慧様と添い遂げたいと思ったのです。  自分は聡慧様のことをお慕い申し上げております。あ、愛しております。あの……ま、まぐわいもこれから、何度もして欲しいのです…っ。」    数秒の沈黙が流れる。自分はいけない事を言ってしまったのか不安が膨らむ。 どのようなお顔をされて聞かれていたか俯いていて、見ていなかった。 目線を上げると、聡慧様の力強い瞳と打ち合う。 「では余と番になるということであるな。」 手に力が篭った。  番……。自分と聡慧様が夫婦に……。   「はい…。是非ともよろしくお願いします…っ。」  ぎゅうと聡慧様を抱きしめ、肩に顔を埋めた。 お側にいることが出来るのだ。 感極まり、涙がぽろぽろと出てきた。 「余は番は初めてだ。求愛は難しいものだな…。拒否をされたらどうしようかとひやひやしたが、心が通うと嬉しいものだ。」  愛しみのある瞳を向け、軽く唇を啄ばまれる。  求愛……?自分はいつ求愛をされたのだろうか? 「聡慧様は自分を好いて下さっているのですか?」 「ん?好いておるから番になったのだろう?」 「そ、そうですか。言葉で好きと言われなかったので気づきませんでした。」  まぐわっていたときに愛らしいや可愛いと言われたが、しっかりと好きとは言われていない。犬や猫のように、愛でてくれていると思っていた。 「…先程まで言っておったではないか。」  不思議そうに首を捻る。 「えっ……」  まぐわっていたときではなく、先程言っていただろうか?自分の気持ちを確認されただけのように思ったのだが…。 「余の気持ちは番になりたいと決まっておった。だから圭の気持ちを聞いたのだぞ。」        「それは………求愛とは言いません。」 「……む」 「自分を好いていると言葉に出して頂かないと求愛とは言えません。先程の会話は自分への確認事項です…。」 「……そうか。」 「そうです…。」  「……圭よ。少しの間に強くなったの?」 あ……山神様に向かって軽口を叩いてしまった。 「す、すみませ……っ」 「いやいや、責めておるのではない。嬉しいぞ。」 このように安心させてくれる言葉をくれるので言えるのだ。自分を傷つけないという確信があるから。 家族がいたときは遠慮なく、口に出していた。それを思い出す。  自分はすでに無意識のうちに聡慧様に甘えていた。 「言葉として伝えてよいと思い出させてくれたのは、聡慧様のおかげです。なので…聡慧様のお気持ちを言葉として聞きたい。」     聡慧様は虚をつかれたようなお顔の後、くっくっと目を細めて笑われる。そのお顔を見ると自分もとても嬉しくなる。 「そうだな…。きちんと言葉にしようか。」 鼻を擦り付けるように顔に触れる。 「余に何人か供物としてきたが、愛らしい、愛おしい、番にしたいと思ったのは圭だけだ。…愛している。」 優しく口づけをされ、胸の中は水が溢れるように喜びが満ちていく。 「聡慧様……私も愛しております。」  圭、享年74(満73歳)。 春先に、天へと旅立った。 その年には季節外れのケイソウの花が聡慧山に咲き乱れ、長く山を彩った。 ケイソウ花言葉 『色褪せぬ恋』 END.

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