8 / 41

第8話

校門に向かって歩いていた時、お兄ちゃんがぱっと走り出した。 「ごめん、こなつ!帰っといて!」 せっかく一緒にいられるのにそんなのやだと、俺も追いかけて駆け出した。 お兄ちゃんの速さにはついていけず、やっとたどり着いた時、お兄ちゃんは誰かをお姫様抱っこしていた。 「誰?それ」 「俺の友達。家まで送ってくから、またね」 「は?なら、俺もついていく」 お兄ちゃんと何か話してた、さっきの子だ。 その時、不穏な空気を感じとったのか抱っこされている子が目を覚ました。 「あっ、先輩!お疲れ様です!って抱っこされてる!?え!?こなつ様!?」 「さーき、落ち着いて。待っててくれたの?ありがとね」 俺が見た事もないような、優しい顔をお兄ちゃんはその子に向けていて。 一気に殺気立った。 「ひっ!?」 そこからはあっという間だった。 その子の息が急に荒くなって、お兄ちゃんが薬を飲ませていて。 猛烈なフェロモンが俺を襲った。 「オメ…ガ……?」 理性なんて彼方に飛んでいって、抱きたいという言葉だけが頭の中を埋めつくした。 「こなつ!こっちに来るな!家に走って帰れ!!」 大きく響いたお兄ちゃんの声がなんとか聞こえて、がむしゃらに走りだした。 部屋にたどり着き、ドアにもたれてずるずると腰をおとした。 初めて見るΩに、発情期。 あんなにきついものなのか。 お兄ちゃんがいなかったら、絶対襲ってた。 俺が嫉妬した時に出したフェロモンに、あのΩはあてられたのだろう。 今思えば、そんなに嫉妬する必要はあっただろうか。 家に着くまで、誰にも襲われていないといいけど。 お兄ちゃんは、大丈夫だろうか。 お兄ちゃんだってαなんだから、きついはず。 いや……、何度もあったから慣れてる?もしかして番っている? なら俺にフェロモンは効かないはずだ。 手慣れてたし、慣れていただけだろう。 あのΩと……お兄ちゃんは番になりたいのだろうか。 お兄ちゃんが誰かのものになるなんて許せない。 「俺……お兄ちゃんが好きなのか」 言葉にしたそれは、やけにしっくり心に納まった。 それと同時に、不可能に近い恋に絶望を感じた。 その日、お兄ちゃんは家には帰ってこなかった。

ともだちにシェアしよう!