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第16話
せっかくの文化祭なのに、お兄ちゃんはいつも通り俺のしたいことをさせてくれる。
こなつのしたいことがしたいって言ってくれて嬉しかったけど、やっぱり何か違う。
……和田と一緒なら、お兄ちゃんはもっと楽しめていたのだろうか。
そんな事ないと頭を振って、たこ焼きを口に入れた。
ふとお兄ちゃんを見ると、ほっぺにソースがついている。
真っ白な頬に吸い込まれるように、そこを舐めた。
「ふぇっ!?な、なにっ?」
その声に自分自身が驚く。
「ソース。ほっぺについてた」
狼狽えているのを隠すように素っ気なく言葉を放った。
「も、もう……言ってよ……」
「ん〜、このくらい普通だって」
嘘。
こんなのした事もされた事もない。
無意識にしちゃっただけ。
「とにかく!次からは言ってね?」
「はいはい」
「あっ!お化け屋敷!あれ、入ろ?」
買ったものを食べ終わり、校内をぶらぶらしている最中。
お化け屋敷って、デートの定番って感じするし。
「うん、わかった」
そこそこ人が並んでいるので、待っている間、お兄ちゃんに話しかけた。
「お兄ちゃんの好きな物とか事ってなに?」
兄弟なら普通知ってるようなことも知らなかったことに、今頃気づく。
「特に、ないなぁ」
「じゃあ、嫌いなものは?苦手なものでもいいし」
「それも、特には。俺のことより、こなつのこと教えてよ」
俺のことはいつでも話すけど、お兄ちゃんの事ってあんまり聞けないから、もっと知りたい。
「お兄ちゃんは俺のことどう思ってる?」
「……うーん、こなつは?」
「大好き」
考えるより先にころんと出る。
その響きは気持ちがいい。
「俺もだよ。とっても大事」
ふわっと笑いながら頭を撫でてくれた。
嬉しい。
「じゃあ……和田のことは……?」
「っ、さき?なんでそんなこと聞くの……」
お兄ちゃんの目が揺らぐ。
この反応は、……好きってことだよなぁ。
「ごめん、別にい……」
「かわいい後輩だよ。それだけ」
俺が、また嫉妬でフェロモンを出さないように言った……?
それだけ和田のことを守りたいんだな…
「次、入ってください!」
なんとなく気まずい雰囲気で、お化け屋敷に入った。
うん、確かに怖い。
二教室分使っているから、ボリュームもある。
展示部門の一位はこのクラスかも。
ふと横を見ても、お兄ちゃんは俺と同じように普通に歩いてる。
ちょっとだけ、抱きつかれるのとか期待してたんだけど。
その時、お兄ちゃんのそばの壁をつき破ってお化け役がとび出てきた。
お兄ちゃんはびくっとして……
手を握りしめてる?
「もしかして、怖い?」
「そんなわけないでしょ……?大丈夫……」
いつもより小声なそれに苦笑して、お兄ちゃんの手を取りぎゅっと握った。
「ちょ、ちょっと?」
「俺が怖いから握っててくれる?」
「それなら……」
顔の表情は変わらないのに、手の握りはお化けが出る度に強くなっていく。
そんなお兄ちゃんに、俺もきつく握り返していたから、お化け屋敷を出る頃には二人とも手が真っ白だった。
「怖かった?」
「あはは……ちょっとね」
苦笑いをするお兄ちゃんは、よほど怖かったんだろう。
弱みを見せるのは得意じゃないだろうに、なんでお化け屋敷に行くこと了承したんだろ。
「ねぇ、こなつ。綿菓子食べたいなぁ」
「え!?わかった!すぐいこ!」
綿菓子を売っているクラスを見て、ぼそっとお兄ちゃんがつぶやく。
お兄ちゃんが、自分のしたいことを言ってくれてびっくりする。
とにかく嬉しくて、急いで手を引いた。
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