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第17話

「あっ!お化け屋敷!あれ、入ろ?」 こなつが嬉しそうに、話しかける。 お化け屋敷か。 入ったことは無いけど、結局人間が仮装しているだけなら、怖くないだろう。 特に躊躇はせず、こなつについて行った。 「お兄ちゃんの好きな物とか事ってなに?」 「特に、ないなぁ」 「じゃあ、嫌いなものは?苦手なものでもいいし」 「それも、特には」 好きとか嫌いとか決めても意味ないから。 だって、お母さんに何回大好きだって言っても、同じ言葉は返してもらえなかった。 あぁ、嫌なことを思い出した。 「俺のことより、こなつのこと教えてよ」 基本、俺の言うことは素直に聞くこなつが、なお質問を続けてくる。 「お兄ちゃんは俺のことどう思ってる?」 「……うーん、こなつは?」 「大好き」 あまりの即答に笑ってしまいそうになる。 好きっていうのはこれくらい軽いもの。 それに気づいてからは、もう好きが信じられなくなった。 「俺もだよ。とっても大事」 簡単に嘘をつく自分への後ろめたさから、こなつの頭を撫でた。 「じゃあ……和田のことは……?」 「っ、さき?なんでそんなこと聞くの……」 急にさきのことを聞かれて、びっくりする。 「かわいい後輩だよ。それだけ」 それだけでなければならない。 後輩としか思ってないはず。 自分でもはっきりとは分からない心の機微に、もやもやした。 「次、入ってください!」 明るい声で、ふわふわしていた意識を取り戻す。 お化け屋敷のなかは、そこそこ暗く、変なBGMが流れていた。 自分は存外、こういう雰囲気は苦手なようだ。 通路が狭く暗いというのが、なんだか嫌だ。 ただでさえ、苦手な空間で驚かされ、段々しんどくなってきた。 辛いのを隠すのは得意なはずなのに。 「もしかして、怖い?」 「そんなわけないでしょ……?大丈夫……」 なんで、分かったんだろう。 ぎゅっと手を握られる。 「ちょ、ちょっと?」 俺が、怖がってると思われたのだろうか。 「俺が怖いから握っててくれる?」 「それなら……」 手を握っているだけで、さっきまでの辛さが半減したみたいだった。 「怖かった?」 「あはは……ちょっとね」 怖かったというか…… しんどかっただけ。 でも、もうお化け屋敷には、二度と行かないでおこう。

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