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第18話
賑わう校舎内を見て、昔行きたかったお祭りを思い出した。
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花火大会のお祭りにお父さんが来賓で呼ばれてて、お母さんとこなつが一緒に行って。
相変わらず、俺のことはいない存在として扱われていた。
「ねぇ、黒川さん。お祭りってどんな所なの?」
「そうですねぇ、賑やかで明るい場所ですよ。坊ちゃんもいつか自分自身の力で行ってごらんなさい。」
黒川さんは執事たちの中で唯一、俺と話してくれた。
優しい人だった。
「自分でなんてそんなの無理……。お父さんに怒られる」
「大人になれば、きっと大丈夫です。坊ちゃんはいつも頑張っていますからね。」
その日の深夜、ドアが控えめにこんこんとなった。
まだ、起きていた俺は訝しみながらドアを開ける。
「こんな時間にすみません。これ、わたがしって言うんですよ。食べてみてください」
そう言って差し出されたのは、雲みたいにふわふわなもの。
「これ、なぁに?」
「お祭りで買ってきたお菓子です。少しでもお祭り気分を味わって欲しくて」
お祭り。
その言葉を聞くだけで、胸が跳ねた。
「食べて、いいの?」
もちろんという返事を聞くや否や、すぐに口をつけてみた。
甘くてふわふわで、食べたら一瞬で幸せになれるような味。
お祭りというのは、こんな幸せな気持ちになれる場所なのだろうかとお祭りに対する期待は急速に膨らんだ。
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今はもう、黒川さんはいない。
俺に構うのを、お母さんに見られたから。
黒川さんと話す時間はあの時の俺にとって、唯一の楽しみだった。
「ねぇ、こなつ。わたがし食べたいなぁ」
「え!?わかった!すぐいこ!」
こなつは慌てたように、俺の手を引っ張って綿菓子のクラスに走った。
久しぶりに食べた綿菓子は美味しいけれど、なんだか普通で。
思い出を自分で否定しているような気がして、笑顔で全て食べきった。
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