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第28話

「これは……妊娠されていますね。おめでとうございます」 「…………………は?」 いきなりそんなこと言われても困る。 確かに最近、ズボンが苦しくなってきたなぁとは思ってたけど。 幸せすぎて太ったのかなくらいにしか、考えていなかった。 「俺……アフターピル飲んだのに…………」 「発情期中のαとΩの性行為では、妊娠率が異常に高いのを知っていますよね?ピルで防げなかった方は少なくないんです」 「そんな……堕ろすことは、できますか……?」 「すでに、妊娠13週目か14週目を迎えています。もし……中絶を考えられるのでしたら、できるだけ早く決めなければなりません」 家に着いても、思考は霞んだままだった。 はやく、決めないと。 いや決めるも何も堕ろすしかない。 もう、いやだ。 せっかく、毎日を楽しいと思えるようになったのに。 食卓に並んでも、いつものような明るい雰囲気にはならない。 「俺が……住み込みのバイトを探してたの、これが理由なんです。発情期にこなつと…………。親に勘当されちゃって」 ははっと乾いた笑いをもらすけど、黒川さんは悲しい顔で俺を見つめるだけだ。 「…すみません、すぐにでも堕ろしたいんですけど……」 「本当に、それでいいのですか。温かい家族が欲しいと、そう言っていたでしょう」 こなつの周りの温かさが羨ましかった。 羨むだけだったそれを、作ることは出来るのだろうか。 ぽろっと冷たいものが頬を伝う感覚。 「怖いんです、産んでも、、ちゃんと育てるなんて……出来ない…………」 愛されることさえ出来なかった俺が、愛することなんてどうして出来ようか。 小さく儚いだろう命を、簡単に気づかず踏みにじってしまいそうだ。 「親とはそういうものですよ。悩んで間違えて、一緒に成長すればいい」 黒川さんは懐かしそうに、俺を胸に抱いた。

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