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10-愛される要素がてんこ盛りすぎる

ノンちゃんを抱いて急いで降りると、ゴローくんはレジに座ってじーっと入り口を見つめていた。 「ご、ごめん、ゴローくん!」 「……お店、閉めていいですか?」 とっさにオレの腕の中のノンちゃんを見た。この子、降りる気、全然ないよな。 「じゃ、戸締りお願いしていいかな?」 「はい」 閉店作業をゴローくんに任せると、オレは夕食の用意にかかった。 ゴローくんは小食だし、ノンちゃんにはショップの人が置いていったノンアノフードのクッキーバーがある。 手早く用意していると、ゴローくんが二階に上がってきた。 「あ、ゴローくん、悪いけど、ノンちゃん抱いててくれないかな?」 夕食はご飯と作り置きのレンチンだけで済ますつもりだけど、抱いたままだとやっぱりしんどい。 「………………………………はい」 ゴローくんがノンちゃんを抱いてリビングへ向かった。 その間に料理を完成させて食卓へ……。 あれ?ノンちゃん一人でオモチャで遊んでるじゃないか。 そうか、無理に抱き続けなくても、そうすればよかったのか。 食事になるとノンちゃんがまたオレの膝の上に乗ってきた。 「アレたべたい」 ノンちゃんが指差したのは、ゴローくんがお粥に乗せて食べていたクルミだ。 「え、あげていいのかな?えーと、ちょっと待ってて」 携帯端末で調べる。 一歳のノンアノにクルミは……。 「OKみたい。ゴローくん、クルミをひとかけノンちゃんにあげてくれるかな?」 「……はい」 ゴローくんがクルミを差し出したのに、ノンちゃんはじーっとオレの顔を見る。 「どうしたの?ゴローくんがクルミをくれるって。ほら『ありがとう』は?」 「ゴローくん、ありがとう」 天使のような笑顔でお礼を言うと、ゴローくんではなく、オレに向かってアーンと口を開けた。 それを見たゴローくんがオレの手にクルミを乗せる。 ピンクの可愛い口にクルミを入れると、モグモグと口を動かし、 「美味しい!もっとちょうだい!」 たまらないというように、小さく体を揺すってねだる。 「クルミはカロリーが高いから、小さいうちはあまりいっぱいあげちゃダメなんだって。……もうひとかけらだけだよ?」 「はぁい、ダンナさま。ふふっ。ありがとう!」 ゴローくんからもうひとかけクルミを受け取って、小さな口にそっと押し込む。 そのノンちゃんの天真爛漫な笑顔につられて、オレも満面の笑みになってしまった。 食事の後は風呂だ。 だけど。 「お風呂の前におトイレ」 ノンちゃんに手を引かれてトイレに行く。 ノンちゃんはヒトで言えば五歳くらいなんだよな。 もう一人でトイレできると思うんだけど、このすがるような目。手伝ってあげたほうがいいんだろうか。 とりあえず白いショートパンツを全部脱がすと、おもちゃのような可愛いおちんちんが出てきた。 なんだろう、このほっこりした気分は。 プニプニで癒しグッズみたいだ。 ノンちゃんを便座に座らせ、様子を見守る。 「……わぁ、上手にできたね」 褒めるとちょっと自慢げに笑うのがたまらなく可愛い。 そしてお風呂。 入れてあげるだけのつもりだったのに、一緒に入りたいとねだられて、つい目尻が下がった。 「もう、しょうがないなぁ」 わいわいキャッキャした楽しいお風呂は、マザーのハウス以来だ。 はぁ……コクウが言ってた、従順じゃないけど可愛いっていうのはこれかぁ。 大きな目で可愛いくおねだりをされるとキュンキュンとしてしまう。 風呂から上がると、ドライヤータイムだ。半折れの耳に熱風を当てないようにガードして……。 ノンちゃんがくすぐったさに、鈴が転がるような声で笑った。 「ゴローくん、お風呂どうぞ」 一人リビングのソファに座っていたゴローくんに声をかける。 そしてノンちゃんを寝かしつけようとするのだが、自分のベッドは嫌がって、オレのベッドで寝ると言ってきかない。 「ダメだよ、ノンちゃん。ワガママはだーめ」 「やぁだ、初めてのおうちで、一人で寝るのやぁだ!」 そう言われてしまうと弱い。 三日間レンタルってことは二泊三日。明日も泊まるんだよな。 「しょうがないな、今日だけだよ?明日はちゃんと一人で寝れらる?」 「はぁい!」 湯上りの火照った体がキュッとしがみついてくる。 なんだこの可愛い生命体は! マザーのハウスで年下の子供の面倒をみたこともあったけど、ちょっと可愛いさの種類が違う。 さすがノンアノ。ヒトに愛される要素がてんこ盛りすぎる。 けど……。 風呂から聞こえてきた水音に、湯船で頬を上気させたゴローくんを想う。 ノンちゃんは猛烈に可愛くて、すでに大好きになってしまっているけど、ゴローくんを想うように愛しいとは思えない。 オレがこの先ずっと一緒に居たいのは、やっぱりゴローくんだ。 一緒に寝ると言うので寝室に連れてきたけど、全く寝る様子はなく、ずっとオレにじゃれついてばかり。 だけど、楽しい時間は早く過ぎるようだ。 ようやく眠くなったらしく、ノンちゃんの体温が高くなってきた。 小さな体を布団に入れ、添い寝をする。 軽くふれるノンちゃんの汗ばんで少し蒸れたような体が、昨日のゴローくんの熱い体を思い起こさせて……。 …………ゴローくん。 清潔感があるのに色っぽくて、クールなのに可愛くて、オレを拒みながらも強く求めてきて……。 ダメだって言ってたくせに、本当はキスが大好きすぎるとことか、たまらなく愛しくて……。 あ、しまった。 ゴローくんに、キスしたこと後悔してないよって、言いそびれた。 昨夜は、酒に飲まれてやらかして、恥ずかしいことをしてしまったなとは思ってるけど、今のオレは後悔どころかむしろ幸福感でいっぱいだ。 「はふっ……はふっ……」 ……ん? 「ノンちゃん、息が荒いけど、どうした?」 「んっ……体が熱いの。抱っこして」 まさか病気か?顔も赤いし目も虚ろで……。 あっ……。 ノンアノはヒトが欲情するとつられて発情するっていってたけど、まさかこんな小さな子まで!? うわ……ヤバい。 ゴローくんのこと考えてたから……。 「ノンちゃん、お水持ってくるから、ちょっとここで待ってて」 ノンちゃんをベッドに残し、オレはグラスのあるキッチンではなく、風呂に隣接するトイレに飛び込んだ。 隣の風呂には入浴中のゴローくんがいる。 煩悩を捨てるために煩悩にまみれろ。昨日のゴローくんを思い出せ。 己に言い聞かせて、便座に座った。 「はぁ、ノンちゃんが待ってるから手早くイかないと。はぁ」 えーっと……ゴローくん……ゴローくん……。 風呂の水道の音すら今のオレには、エロく感じられる……。 想像の中のゴローくんは、ちょっと嫌がりながらオレのモノを咥えていた。 『ぁふ……ハクトさん……イヤら……イヤっ……むぶっっ……』 『本気で嫌がってるようには見えないけど?』 『んっっく……イヤら……らって、次から誰かに好きな食べ物を聞かれたら、ハクトさんのおチンチンって答えないといけなくなる……』 ……はぁっ。何考えてんだ……。 バカだな、オレ。 でも妄想の中のゴローくんも可愛い。 抜きに徹すれば、そう時間はかからなかった。 そして洗面所で首や脇、胸、そして抜いたばかりのソコを濡れタオルで拭って、欲情の痕跡をできるだけ消すと、水を持って寝室に戻った。 「はい、ノンちゃんお水」 ノンちゃんはさっきよりはだいぶ落ち着いているようだ。 はぁぁぁ……。 ゴローくんに欲情してるのを、こんな小さな子に感じ取られてしまうなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。 明日は絶対にリビングに寝かせないと。 そしてこの子の側にいるときには、なるべくゴローくんのことを考えないように……だな。

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