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11-ノンちゃんがウチに来て二日目の朝
ノンちゃんがウチに来て二日目の朝。
「ゴローくん、今日は午後から店番お休みしていいから」
「え……どうしてですか?」
「昨日一人で、しかも長時間店番させちゃったから。ゴローくんも一人で買い物とかしたいだろ?」
膝に乗っかってくるノンちゃんをそのままに、朝食を取りながらゴローくんに半休の提案をした。
昨日ゴローくんを一人でほったらかしにしてしまったので、そのお詫びだ。
「買い物……」
「昨日携帯端末を渡しただろ?あれにお手伝いをしてくれた分の給料をチャージしてるから。あ、そ、そうそう、元の居候先を探す時間もあげられなかったし、ね?」
最後、妙にモゴモゴとなってしまったのは、居候先なんか探して欲しくないってのが本音だからだ。だけど、そこが見つかっても、きっとゴローくんはウチに戻ってきてくれる……はずだ。
「元の居候先……そう……ですね。じゃあ、午後からお休みします」
「あ、でもちゃんと帰ってきてね?元の家が見つかっても、絶対一旦は帰ってきてよ?もし迷っても、ちゃんと地図にウチの場所を登録してるから、通りすがりの人にそれを見せて道を聞いてね?」
「はい。わかりました」
やっぱり不安で必死に念押ししてしまった。
無表情で頷くゴローくんにノンちゃんを預けて、オレは開店準備を始めた。
ノンちゃんは不思議なほどゴローくんには甘えない。まだ小さいけど、飼い主候補はオレだってことをしっかり理解しているんだろう。
「ゴローくん、ノンちゃん、開店準備できたから、もう下に降りてきていいよ」
階段から二階に向かって声を張り上げたけど反応がない。
しょうがなしに階段を上がって行く。
あれ……二人の様子がちょっとおかしい。
……ゴローくん、もしかしてちょっと不機嫌?
ノンちゃんはオレの顔を見てぱっとソファを飛び降りると、さっとそばに寄って服をつかんだ。
「えーっと、ゴローくん、指示を書棚に貼っておいたから整理の続き、お願いね」
「はい」
ゴローくんはいつもよりさらにクールな無表情で一階の古書店に降りて行った。
◇
午後になるとゴローくんは半休でお出かけした。
どこに行くのと聞いても曖昧な表情だったけど、携帯端末はしっかりと持って行ってくれたので大丈夫だろう。
オレはレジに座って店番をしながらキーボードを叩いている。ノンちゃんはその横でおもちゃで遊んでいた。
時々楽しそうにオレにオモチャを見せてくる。
なんだかよくわからないけど、それがとっても幸せに感じられた。
ノンちゃんは意外に空気を読めるようで、オレが原稿の執筆に集中しているときには声をかけずに一人で遊んでくれている。
仕事の邪魔にならず、そばにいて笑顔で癒してくれる。
……ノンアノ、最高だな。
そんな午後を過ごしたのちゴローくんが帰ってきて、店を閉め、夕食となったのだが、なぜか食卓の空気がぎこちない。
ノンちゃんは相変わらず可愛く無邪気なのだが、ゴローくんが……。
「ゴローくん、今日は半休で何してたの?」
「買い物です」
「へぇ、何買ったの?何も持って帰ってこなかったようだけど」
「………注文だけ……です」
「そうなんだ。何を注文したの?」
「……服……です」
「へぇ、どんな服」
「……僕に……サイズの合う服」
「え、あ、オレのじゃサイズ合わなかった?同じくらいだって思ってたんだけど……」
確かに身長は同じくらいだけど、ゴローくんの方が引き締まってて細いんだよな。
「……合わなくは……ないです」
「じゃ、どうして服を注文したの」
「……欲しかったから」
「あ、そ、そうだよね、ごめんね、変なこと聞いて。えーっと、そうだ、元いた家はどうだった?何か手がかりは見つかった?」
「いえ、何もありません」
「そう。残念だね」
「……残念……はい」
なんだかよくわからないけど、どんどんゴローくんが落ち込んでいくのがわかる。
すぐにでもぎゅっと抱きしめて慰めてあげたいけど、ノンちゃんに抱きつかれてるから、それもできない。
「ねぇ、あの赤い実食べたい」
ノンちゃんが指差したのは、ゴローくんの粥に乗ったクコの実だ。
「ああ、これは……ちょっと待って」
ゴローくんの好物だから、さすがにちょうだいとは言えない。
キッチンに取りに行こうとするけど、ノンちゃんが離れてくれないので、仕方なしに抱きかかえたままキッチンにいく。
「あーん!」
クコの実を見せるとノンちゃんが大きく口を開いた。
「んー!美味しい!もう一個ちょうだい!」
「もう一つ?はい」
「んー!!もう一個!もう一個!」
次々に欲しがるせいで、袋に半分残っていたクコの実が三分の一ほどにまで減ってしまった。
「これ以上はもうダメだよ」
「はーい。また明日の朝、食べていい?」
「うん、また明日ね」
そこに自分の食器を下ろしにゴローくんがキッチンに入ってきた。
不自然なほどオレとノンちゃんを見ないようにして、一直線に流しに向かう。
……あれ……?
ちょっとわかりづらいけど、これ、もしかしてヤキモチ焼いてる?
多分そうだよな。
ものすごくこちらを意識してるのが伝わってくるのに、頑なに視線を向けない。
う……こんなクールな顔して……可愛い……!
あ、ダメだ。ゴローくんの愛らしさを再確認してしまったら昨日の二の舞になりかねない。
本当はイチャイチャしながら一緒に食器を洗いたいけど、一旦落ち着け。
できるだけゴローくんから意識をそらさないと、またオレの興奮がノンちゃんにおかしな影響を与えてしまったら困る。
ゴローくんが食器を洗っておいてくれるというのでお任せして、オレはノンちゃんと風呂に。
いくら可愛いくても、さすがにノンちゃんには欲情しない。
ちっちゃくて柔らかな体が可愛くて、洗うだけで癒された。
風呂に響くキャッキャと楽しそうな声は、聞いていると疲れるのに元気が出る。小さい子って不思議だな。
ちょっと長めのお風呂タイムを終えて、ノンちゃんはうつらうつらし始めた。
すかさずリビングに置いたベッドに寝かせようとするけど……。
「やだ!まだ眠くない」
「うそだ。目がトロンとしてるよ」
甘えたがりなノンちゃんはやっぱりオレと寝ると言いだした。
そしてベッドから出て、オレの寝室に入り込む。
それを引っ張り出して、ノンちゃんのベッドの上でオモチャで一緒に遊べば、疲れて眠くなるんじゃないかと思ったんだけど、そう上手くはいかないようだ。
えーっと、なんでこんなに必死になってノンちゃんをこのベッドで寝かせなきゃいけないんだっけ?
はぁ……とため息をつくと、ノンちゃんが不安げな顔でオレを見上げてきた。
しょうがないな。
「おいで、ノンちゃん」
ノンちゃんの中折れ耳がピコンと揺れ、弾ける笑顔で抱きついてきた。
……ああ、やっぱ可愛いなぁっ!
ノンちゃんを抱き上げ、だらしない笑みを浮かべていると、入れ替わりに風呂に入ったゴローくんが桜色の湯上り肌で現れた。
やばい。
ノンちゃんを抱き上げた状態で、ゴローくんの色っぽい姿なんか見てしまったら……。
とっさに目をそらす。
けど、『ゴローくんを意識しちゃダメだ』ということを意識しすぎて、ドキドキしてしまっている。
バカすぎるだろ、オレ。
「ゴローくん、少し早いけど、もう寝るから。おやすみ」
オレはゴローくんを見ないように気をつけながら、ノンちゃんを寝室に連れて行った。
ベッドに入ったノンちゃんはずいぶんと眠そうなのに、それでもきゃっきゃと楽しそうだ。
可愛いなぁ……。
愛玩動物ってこんなに心が和むものなのか。
ゴローくんに心惹かれた状態でノンちゃんを飼うのは流石にマズいだろうけど、犬か猫なら飼ってもいいかもしれないなぁ。
でも、もしゴローくんがこれからもオレと一緒に暮らしてくれるなら、やっぱり一年くらいは二人っきりがいいかな。
犬猫すら割り込む隙もないほどの熱々ラブラブ期間が欲しい。
そしてゴローくんを思いっきり猫っ可愛がりするんだ。
──んくっ……ハクトさん……もっと……。
──うん、いくらでも……ゴローくんが欲しいだけキスしてあげる。
はぁ……あんな甘い時間が毎日続いたら、ほんと最高だよ……。
「……ほっぺた熱い」
「はっ……!」
ノンちゃんがオレをじっと見つめて、小さな手を自分の頬に当てていた。
オレ、ほんと懲りないな。ゴローくんのことは考えちゃダメなのに。
「ごめんね、ノンちゃん。熱いのはすぐに治まるはずだから、もう寝ようね」
「体がぽっぽして寝れない……」
仕方がない。
ノンちゃんが寝つくまで、一緒に遊ぼう。
その間にゴローくんとのイチャイチャ妄想が頭から消えるはずだ。
ノンちゃんが楽しそうにベッドを転がる。そうこうしてる間に、ほてりはおさまったようだ。
そして、口の端によだれを浮かべてウトウト……。
良かった。
ようやくノンちゃんを寝かしつけることができた。
はぁ……なんか、すごく疲れたな。
そしてオレも、ノンちゃんが寝付いてそう間をおかず、沈むように眠りに入っていったのだった。
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