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14-ヌイヤ・シンエン

「コクウ、お前のせいだ」 「は?」 「ノンアノのお試しレンタルなんか勧めるから……」 「はぁ?ゴローくんが居なくなったら寂しいってぐずってから、寂しくないようにノンアノを飼ったらって勧めたんだろ。あの時はまだゴローくんとずっと一緒にいる決心はついてなかったじゃないか」 「ちょうど『ずっと一緒にいたい』と思う境界線上に居たんだよ」 「それに、レンタルを受け入れたのはお前だろ?」 「だって、あんな風に直接来られたら断れないだろ?」 「はぁ?何言ってるんだ。俺は飼う気がないなら断るぞ。ショップだって飼う気がないなら断ってくれたほうが助かるだろ」 ……それが正論かもしれないけど、あの状況では断れないって奴も多いだろ。 ついつい自己擁護してしまうけど、結局オレが不甲斐ないだけ……だよな。 わかってる。 でも落ち込んでる時に自分のダメさを自覚させないでくれよ。 「ゴローくんに渡していた携帯端末には本当に何も痕跡は残ってないのか?買い物に行って何か注文してたって言ってただろ?」 「端末は何度も確認したよ。………っあ!そうだ。注文したものを受け取りもせずに出て行くなんてありえない。やっぱりゴローくんはまた迷子になったんだよ」 「店に受け取りにいって、そのまま出ていったのかもしれないだろ」 「……あーもう!どうしてコクウはゴローくんがオレに愛想を尽かしたってことにしたいんだよ!」 「帰ってこないという事実に対し、ゴローくんの行動の可能性を提示しているだけだろ。その店には行ってみたのか?」 「いや、ゴローくんはどこで何を買ったのか教えてくれなかった」 「それこそ携帯端末から電子決済の履歴をたどったらわかるんじゃないのか?注文したなら、手付け金を払ってるかもしれないだろ?まあ、店がわかってもゴローくんの行き先の手がかりなんてないかもしれないけど……」 端末のメモやファイルは探したけど、決済のサイトに飛ぶというのは盲点だった。オレの店じゃ、来店して商品を受け取らずに先に支払いをするなんて有り得ないからな。 オレは急いで家に戻り、端末で決済記録を確認した。 その結果、一軒のみだが、たしかに履歴があった。 『ヌイヤ・シンエン』 知らない店だ。 ゴローくんはここで服を注文したと言っていた。 その服はどうなったんだろう。 …………行くしか、ないよな。 ゴローくんの利用した店の場所はすぐにわかった。その後、一晩かけて居候先も探したが、こちらはまだまだ時間がかかりそうだ。 手がかりが得られるかどうかはわからないが、オレは翌日、古書店を二時間ほど閉店して、ゴローくんが服を注文したという店を訪ねてみる事に決めた。 ◇ ウチから歩いて十五分ほどの距離にある、おしゃれな石畳が特徴的な住宅街。そしてその片隅にある小さく可愛らしいお店が目的の『ヌイヤ・シンエン』だ。 服を注文したと言っていたが、店の雰囲気もそしてこのお店が扱う品もゴローくんに似合うとは言い難い。 ハート柄やチェックの溢れるカラフルな店内。 なのに、レジ横に座って何か作業をしている店主はオールバックで細かいストライプシャツにこげ茶のスラックスというスマートなテーラー風の姿で、彼もまたこの店の可愛いらしい雰囲気にそぐわなかった。 その店主のシンエンさんに尋ねると、彼はゴローくんが来店した時のことをよく覚えていた。 「ええ、確かに服をオーダーに来ましたよ。オーダーに単身で来るなんて滅多にないことなんでよく覚えています」 「オーダー?彼は何をオーダーしたんですか?」 「ですから、服を」 「でも、ここ……」 店内に飾られているのは、可愛らしいハーネスシャツに、おもちゃに、ドレス。 ここはノンアノグッズとノンアノのオーダー服のお店だ。 「具体的に言うなら黒のハーネスとパンツですね」 「……はぁ」 ゴローくんがここに買い物に来たのは、ノンちゃんがレンタルで来た二日目だ。 ということは、まさかノンちゃんのために……? 「まあ、流石にあの子のサイズだと市販品はないだろうから、オーダーになるのはしょうがないですよね」 「……え?」 「単身での来店も珍しければ、携帯端末での支払いを自分でする子なんて初めてだから、忘れようにも忘れられない。ずっとこの仕事やってきたけど、あんな賢い子、初めて会いましたよ」 「………」 「で、あの子がどうかしましたか?貴方があの子の飼い主さんなんですよね?もしかして、勝手にオーダーしたからキャンセルに来たとか?」 「あ、いや、キャンセルではないんですけど……。え?飼い主って?」 「あれ?ゴローくんの飼い主さんじゃないんですか?じゃあ、なんであの子のことを聞きに?」 「いや、ゴローくんはしばらくウチにいたんですけど、急にいなくなっちゃって……いや、それより……え?」 飼い主……? ゴローくんの? ゴローくんはこの店に自分の服を買いに来て、でもここはノンアノ服のオーダーショップで……? え……? ええ……? 「しばらくウチにいたってことは、あの子、はぐれノンアノだったんですか。それで貴方が保護を?ちゃんと迷子保護の届出はしました?」 「届出……いや、ゴローくんが医者も警察もイヤだと言うから……」 「そうですか。でも今度からノンアノを保護した場合はちゃんと役所に届出た方がいいですよ。飼い主さんが心配しているかもしれないし」 「飼い主……」 混乱したまま、飼い主という言葉にドンと肩が重くなった。 飼い主……? このヒトの言い方じゃ、まるでゴローくんがノンアノみたいじゃないか。 「あれ……?もしかして、ゴローくんがノンアノだと知らなかった……とか?」 気遣うように顔を覗き込まれる。 「いや、いや、いや、またぁ。ゴローくんがノンアノだとか、そんなわけないじゃないですか。だって、ゴローくんオレとそう身長も変わらないし、耳もないし、文字も読めるんですよ?」 そう、ゴローくんにはノンアノの特徴である頭上の耳がない。 もしゴローくんが本当にノンアノだとするなら、あの外見は異様だ。 大人っぽすぎるクールな顔も全くノンアノっぽくない。 それにしっぽだって……。 ノンアノだっていうなら、アノ時……肌を晒したゴローくんにしっぽはあったか? ……思い出せない。 けど、小さいしっぽなら服やシーツで隠れて見えなかった可能性はゼロではない。 もし仮に、このヒトの言う通り、ゴローくんがはぐれノンアノだったとしたら……。 ゴローくんに飼い主が……。 彼には何よりも大切で愛しい飼い主が…………いるってこと……なのか?

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