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17-探す。やっぱり探す!

徹夜後のぼーっとした頭のまま仕事をこなしていると、コクウが店にひょいと顔を出した。 一時半……昼の休憩時間か。 昨日の話を聞きに来たようだが、店頭で話す気にはなれず、夜に改めてオレからコクウの家を訪れた。 「ゴローくんが、ノンアノ?え、嘘だろ?」 コクウも目を丸くしている。それが当然の反応だよな。 「店主のシンエンさんはそう言ってた」 「でもその人が言っただけで、証拠があるわけじゃないんだろ?」 ソファに座るコクウの背後から腕の間をくぐって、チョミちゃんがノンアノらしい体の柔らかさを見せる。 「あの子、ノンアノだよ!チョミ、においでわかるもん!」 「においって、でもチョミちゃんはゴローくんと直接会ったことはないよね?」 「コクウがハクトの家から帰ってきたとき、あの子のにおいがしてた!オスのノンアノで、七歳くらい!」 「え……ゴローくんってまだ七歳なの!?」 「チョミより年下だよ!」 オ……オレはそんな小さな子を恋人にしようとしていたのか……。 愕然とするオレの肩に、苦笑いを浮かべたコクウが手を置く。 「ハクト、ノンアノの場合は三歳でもう大人だから」 「あ……ああ……」 そう言われてもなかなか動揺がおさまらない。 「三歳でヒトの十八歳くらいになって、そこからは一年に二歳足す感じだから、ヒトで言えば二十六歳くらいだよ」 「……そうか」 計算してもらって少しだけ落ち着けた。 二十六歳か……。 そうだオレは七歳の子供に手を出そうとしてたペド野郎ってわけじゃないんだよな。 「チョミ、あの子きらい!」 「どうしてそんなこと言うんだチョミ。ちゃんとお話したこともないだろ?」 コクウがたしなめると、チョミちゃんがキッと目をつり上げた。 「あの子ね、嫌な子!朝ね、チョミが窓から耳をピンピンってしてあいさつするのにね、あの子耳をピンピンってしてあいさつ返してくれないの!それでねヒトみたいに頭をチョコンってさげるの!ちょっと体が大っきくってヒトみたいだからって、ボクはノンアノじゃないよって風なの!」 「え……それは、ゴローくんは髪を編み込みして耳を隠してたから、耳での挨拶ができなくて、ヒトの真似して挨拶を返してたんじゃないかな?」 「じゃあ、どうして耳を隠すの?ヒトのフリするなんて変!」 ……確かに……ゴローくんはどうしてヒトのふりなんかしてたんだろう。 「チョミ、ゴローくんは嫌な子じゃないよ。多分、ヒトのフリをしないといけない事情があったんだよ」 「そんなこと知らないもん。チョミはあの子がちゃんと耳をピンピンしてくれるまで嫌いなままだもん」 「って、ことはチョミちゃん、ゴローくんが耳をピンピンして挨拶したら、友達になってくれるの?」 「うん、なるよ。だってチョミはあの子があいさつしないとこが嫌いなだけだもん」 「そっか……。チョミちゃんはいい子だね。ありがとう」 チョミちゃんの頭をなでると『何でありがとうと言われたのかわからない』といった顔で首をかしげた。 「なあ、ハクト。ノンアノが自分からヒトのフリなんかすると思うか?」 「さあ?オレはノンアノを飼ったことがないからわからないけど……」 そうだ、ノンアノ服の店のシンエンさんは、既製品ではあんな大きな服はないと言っていたから……。 「ゴローくんは体が大きいから、元々の飼い主の所にいた時からすでにヒトと同じ服を着ていたはずだ」 でも耳は? 「ハクト、ゴローくんは倒れた時、黒い帽子をかぶっていたよな。もしかして、飼い主は大きすぎるゴローくんをノンアノだと知られるのが嫌だったんじゃないか?」 「……つまり、オレみたいに恋人がほしくて、ヒトのフリをさせていた!」 「いーやーーーーそれはないだろ」 成る程と激しく納得したのはどうやらオレだけだったようだ。 「お前みたいに『ヒトじゃないと』なんてこだわるのは少数派だ。それに飼い主がノンアノを恋人のように思ってたんだったら、なおさら愛らしい耳を隠すなんて命令しないと思うぞ」 「……ノンアノの飼い主は皆一様に耳フェチなのか?」 「ほぼ百パーセント、愛らしい耳にトキメかない飼い主はいない。『ノンアノなのにヒトの格好をしている』とゴローくんがからかわれないように帽子を被らせてたって方が現実的かな」 「なるほど」 ヒトの服を着て、帽子までかぶれば、ゴローくんをノンアノだと気付くヒトはまずいないだろう。 そして、そんな格好で飼い主とはぐれ、さまよい歩いていたから、はぐれノンアノとして保護されることもなく、以前いたという商店にたどりついて居候するようになったのか……? 「ああ、いや。帽子だけならそれで説明がつくけど、耳を隠すために編み込みで押さえつけるなんて、ノンアノが自分で始めるとは考えられないんだよな。チョミなんて自分でブラッシングするのすら面倒がる」 「コクウ、一年近く居候していて、ゴローくんがノンアノだと気づかないなんてあると思うか?」 「さあ。居候って言ったって、寝食を共にしているとは限らないしな。どっちにしても元の飼い主か居候していた商店の店主が、かなり周到にノンアノであることを隠そうとしたんだろうな」 「となると『ゴローくんがからかわれない為にヒトのフリをさせた』なんてレベルじゃない。どうしてそこまでしてノンアノである事を隠さなきゃいけないんだ?」 「そんなの俺が知るわけないだろ。直接聞くしかないんじゃないか?」 「……わかった。探す。やっぱり探す!」 「ゴローくんをか?」 「もちろんゴローくんも探し続けるけど、ゴローくんのいた家と、居候をしていた家も探す」 「え、でもハクト、ゴローくんを探して、そのあとどうするんだ?」 「どうするって、だから……ちゃんと保護されていればそれでいいし……」 ぬるい考えは捨て、飼うのか飼わないのか、はっきりさせろとコクウの目が語る。 でも、まだオレ……。 「ゴローくん帰ってこないの?」 コクウに詰め寄られて戸惑うオレにチョミちゃんの純真な視線が刺さった。 「それは……だって……」 「だって、なんだよ?ハクトはゴローくんが心配なんだろ?戻ってきて欲しいんじゃなかったのか?」 「ヒトだと思ってたから」 「ヒトじゃなかったらどうだって言うんだ?ゴローくんの外見は、ヒトなら好みだけど、ノンアノとしてはみっともないから飼うのは恥ずかしい?」 「そっ、そんなわけないだろ!そうじゃなくて……うまく説明できないけど……ヒトとして一緒にいたいと思ってた相手を飼うって……そんな……すぐに切り替えられるわけないだろ?」 ゴローくんがヒトではないということ。そして、ノンアノだということを頭で理解はできたけど、感情までそう簡単に追いつくわけじゃない。 「ゴローくんのこと好きなんじゃないのか?」 「す……好きだよ。好きだから……だから、混乱してるんだろ!!!」 急に大きな声を出したせいでチョミちゃんを怯えさせてしまった。 気まずい思いでキュッと拳を握り込む。 「ゴローくんのことは探し続ける。けど、見つかった後どうするかは、探しながら考えるから、いまはそっとしておいてくれよ」 チョミちゃんを膝に抱いたコクウが、オレにいたわりの目を向けてくれた。 「わかった。でも、何かあったらいつでも相談に乗るから。な、チョミ」 「うん。チョミはハクトくんのこと知らんぷりしてるから、お話があるときはハクトくんから声かけてね」 「あ、そっとしておいてくれっていうのは、ゴローくんの事に関してで、お話は普通にしてくれていいから」 「ゴローくんをそっとしておくの?チョミわかんない」 不貞腐れ顔のチョミちゃんがコクウにぎゅっと抱きついた。 こうやって見ると、チョミちゃんは、反応も外見も凄くノンアノらしい。 仮に……オレがゴローくんを飼ったとしたら、チョミちゃんがコクウに甘えるように、ゴローくんもオレに甘えてくるんだろうか……?? いまいち想像できない。 クールなゴローくんに膝に乗ってこられたら……。 あ、仮定なのに顔がニヤけそうだ。 でも『飼う』っていう関係性を考えると……。 ダメだ。 どうしても、思考停止してしまう。

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