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18-頭が沸騰した

ゴローくんがノンアノだと判明すれば、当然探す手段も変わる。 オレはまず、近隣コミュニティを担当するノンアノの保護施設と、収容所に問い合わせをした。 しかし……。 『ではその子のお名前と特徴を教えていただけますか?』 「名前はゴローくん、髪と目は黒で、身長が約百六十から百六十五センチくらいで……」 『え……ノンアノちゃんをお探しではないんですか?』 「はい。ノンアノの中でも特に大きいのですぐにわかるんじゃないかと」 『ノンアノちゃんの登録ナンバーは?』 「その、オレは飼い主じゃなくてですね……」 そんなやりとりの挙句、いたずらと思われたり、妙に優しく優しく対応され、電話を切られたり。 ゴローくんくらい特徴的ならすぐに見つかるんじゃないかと期待をしていたけど、飼い主ではないという、その一点がとにかく大きすぎた。 ノンアノの譲渡会にも顔を出してみたけど、ゴローくんの情報はなかった。 けど、ゴローくんについて尋ねているうちにオレの熱意が保護施設の担当者に伝わり、悪ふざけではなく、本気で探しているのだということはわかってもらえたようだ。 それと同時に、ネットではぐれノンアノの情報を調べ、コクウがくれたヒントを元に、ゴローくんが居候をしていた店も地道にマップで探した。 三、四日歩いたと言ったって、直進ではなく彷徨い歩いていたわけだから、そう遠くはないはずだとアタリをつけても捜索範囲は半径九十キロ圏内。 マップ上でも一軒一軒チェックして行くのはなかなか骨が折れた。 幸いなことに『向かいにクルクル回る装飾のある散髪屋があって、近くにスーパーやコンビニがなく、ノンアノ用滑り台がある公園も近所にある、潰れそうな日用品店』という条件に当てはまる店は二軒しかなかった。 さすが潰れそうな日用品店だけあって、電話をかけてもどちらもなかなか出ない。 それでも、より遠い商店とはどうにか連絡がつき、ゴローくんが居候をしていた店はこちらではないことがわかった。 つまり、もう一軒が探していた商店に違いない。 その商店は二つほど離れたのコミュニティにあり、マップ上ででもオレの家から三十キロ離れていた。 「……つながらない」 時間をあけ四度かけても電話がつながらなかったため、オレは電話連絡を諦めた。 これだけ離れているなら、帰り道を覚えていないゴローくんが歩いて戻っているとは考えられない。 それでも、自動車なら三十分程度で着く。 「はぁ……行こう」 ゴローくんへの手がかりは他にないし、とにかく何かしなければ落ち着かない。 幸い翌日は古書店の定休日だったため、オレは車を借りてその商店に向かうことに決めた。 ◇ コミュニティの中心部から離れた、海と山に挟まれた集落にある日用品店は、ひさしが破れ、店内は暗く、棚もスカスカだった。 何度か声を張り上げて呼び、ようやく出てきた白髪が目立つ店主も、愛想がいいとは言えない。 そんな店主にゴローくんについて尋ねる。すると、やはりここが居候していた店だったと判明した。 オレはすぐにゴローくんを保護した経緯を話した。 しかし、店主はゴローくんを心配する事もなく、彼が迷子になった時の数百円の売り上げ金を渡すように言ってきた。 ゴローくんはここに一年以上居候していたらしいが、持ち物や荷物などは、ほとんどないという。 実際、居候していた二階の狭い畳の部屋も見せてもらったが、そこには店主がゴローくんに貸し与えたという布団と吊り下げられた着替えが二着あるだけ。襖が外れている押入れには、恐らく売れ残りだろう、何十年も前の古い商品が詰め込まれまれていた。 窓の外に目を向けると、はす向かいのクルクルまわる看板付きの理容室の屋根越しに、青い海が広がっている。 ……ウチより優っているのはこの美しい眺めだけだな。 少しホッとしながらも、ここでどんな生活をしていたかが心配になった。 「あの、もしゴローくんが戻ってきたら、必ず連絡をよろしくお願いします」 オレの言葉に、店主の反応は薄い。 「いやぁ、戻って来んだろ」 しかもゴローくんの動向には全く興味がなさそうだ。 「あの、ゴローくんのことなんですが。あの子がノンアノだってことは……ご存知でしたか?」 意を決して聞いたオレに、店主は『当然だろう』と馬鹿にするように笑った。 「もしかして、髪で耳を隠してヒトのフリをするようゴローくんに指示したのはあなたですか?」 「ああ、そうだ」 腹が立つくらいあっさり認める。 「どうして、そこまでしてゴローくんがノンアノだってことを隠さなきゃいけなかったんです?」 「ペット登録してねぇノンアノがいるってバレたらまずいだろ?普通のノンアノはヒト目につかないところで雑用させるのがせいぜいだけど、アイツはデカいからヒトのフリして店番を任せたり、ずいぶん重宝したぜ」 「他のって、ゴローくんの他にもノンアノを飼って……?」 「今はいねぇよ。それに飼ったこともねぇ。たまに野良を見つけたら拾ってくるんだ。飼い主に捨てられたり逃げたりした野良は、ヒトに飼われたがってるから簡単な家事を仕込みやすいんだよ。給料のいらない使用人だって思えば餌代くらい大したことねぇし。まあ、野良だからすぐウチからもいなくなるんだけどな」 「なっ……!」 ずいぶんと身勝手な言葉に頭が沸騰した。

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