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22-やっぱり、行こう

先日の古書イベントでチェリオの飼い主のミカゲさんが紹介してくれたのは、収容所とも呼ばれる地域ノンアノセンターの職員だった。 オレはすぐにそのライコウという職員さんに『わずかでも情報があれば教えて欲しいのですが』と、ゴローくんのことを話をした。 すると、彼の顔つきが変わった。 「私はセンター内にいることが少なく、直接ノンアノを管理する部署でもないので……情報があれば、後日改めてご連絡させてください」 型通りの言葉だったが、ライコウさんの笑顔は十二分に期待を持たせものに見えた。 『お探しのノンアノではないかと思われる子がいる』とライコウさんから連絡が入ったのはそれからすぐのことだった。 なんと、ゴローくんがいたのは、イベントが開催されていた県を管轄する地域ノンアノセンターだったのだ。 地元でどんなに問い合わせをしても見つからないはずだ。 どうやら県境近くで保護されたが、ゴローくんのボロボロの服や徘徊慣れした様子などから、すでに飼い主は探していないと判断され、通常の保護期間を待たずして県境の保護施設から直線距離で百キロ近く離れている隣県のセンターに移送されたらしい。 隣県のノンアノセンターにいたのも驚きだが、ゴローくんが保護されたという県境のコミュニティまでだってウチから何十キロもある。 いくらコミュニティ意識がないとはいえ、流石にそんなところにまで行っているとは想像もしなかった。 保護されている場所がわかったとなれば、すぐに迎えに行ってゴローくんと感動の再会!……と、思っていたのだが、そうすんなりとはいかなかった。 ノンアノは飼い主に一心に愛情を傾け、強い執着を持つ。 だからよっぽどのことがない限り家出なんかしない。 つまりオレには『ノンアノにひどい扱いをした(かもしれない)飼い主』というレッテルが貼られてしまっていたのだ。 それから複数回にわたってノンアノセンターの担当職員との面会をし、自宅訪問を受け、虐待などないと証明され、ようやくゴローくんとの面会日が決定した。 そう、決まったのは面会のみで、帰宅させるかは面会時のゴローくんの反応を見て決められる。 問題なければ引き渡し。 晴れてゴローくんと一緒に暮らせるようになるのだ。 オレはこれから、本当の意味で飼い主になれるかが試される。 だけど『飼い主』という意識にはどうしてもなれなくて、誤解が生じて別れた恋ビトによりを戻してくれないかとお願いに行くような気分だ。 しかも、本人のOKだけでなく、職員の許可までもらわねばならない。 ……大丈夫だと思いたい。 けど、チュリオのことで誤解をさせてしまった上、うっかり一人で長時間店番をさせたこともあるし不安だ……。 面会は明日。 これが上手くいけば、ゴローくんはまたこの家に帰って来てくれる。 けど……。 はぁぁぁ…………。 くそっ。 なんでオレ、こんなに弱気になってるんだ。 ゴローくんを大切に想う気持ちに嘘偽りはないんだから、不安なんて……。 いや、不安のわけはわかってる。 これまでオレの人生で、絶対に失敗できないことなんかそうそうなかった。 けど、今回の面会は何がどうあっても、しくじれない。 面会の失敗はすなわち、ゴローくんとの永遠の別れを意味することになる。 それに失敗が怖いだけじゃなく、ずっと気になっていたアノ件もある。 気になりながら後回しにしていたけど、行動すべきは今なんじゃないか? 意味のないことだってわかってるけど……。 うん……やっぱり、行こう。 ◇ ゴローくんとの再会を翌日に控えたオレは、ある公園にやって来ていた。 オレの自宅から車で数十分富裕層が多いことで知られるコミュニティにある。 しかし実際は貧富の差の大きなコミュニティで、広大な公園内ですら南北で貧富の差を感じ取れるほどだった。 公園の南側を散歩しているヒトはあきらかに身なりがよく、着飾ったノンアノを連れている。 それに対し北側にはノンアノを連れているヒトなど皆無で、板とビニールシートで作った小屋に住み着いているヒトまでいた。 ヒトはマザーのハウスを出たら必ず家を与えられるはずなのに、彼らに一体何があったのか、全く想像できない。 運動場や植物園まである、この広大な公園は、あの日用品店の店主がゴローくんを連れ帰った場所だった。 オレはノンアノセンターの職員に自分が飼い主として適正かを何度も審査されたことによって、ゴローくんが元々飼われていた家でどう扱われていたのかが再び気になって仕方がなくなっていた。 それに最終審査となる面会に対する不安が加わった結果、どうしても我慢できず、ゴローくんの元飼い主の情報がないかとこの公園までやってきてしまったのだ。 公園の南側には豪邸が集まっている。おそらくこの中にゴローくんが飼われていた家があるはずだ。 そしてその家でノンアノを多頭飼いしていたというのが本当なら、日常的にこの公園で散歩させている可能性が高い。 そう考えて、ノンアノの散歩が多い夕方を狙ってここに来たのだ。 公園を一周していると、飼い主からはぐれ、迷子になったノンアノに遭遇した。 泣きじゃくるその子がゴローくんと重なり、胸がぎゅっと締め付けられる。 必死でなだめて一緒に飼い主を探すと、そう離れていない場所で飼い主さんも必死にその子を探していた。 ふわふわの栗色の髪が可愛らしいノンアノは、飼い主を見つけた途端、大きなブルーの目は潤ませ駆け出して行った。 「会えてよかった……」 今度は泣きじゃくるノンアノの頭をなでる飼い主と、自分の姿がダブる。 ゴローくんは流石に、オレと再会してもこの子みたいに泣きはしないだろう。 むしろオレの方が感極まって泣いてしまうかもしれない。 「連れてきてくださって、ありがとうございます。お世話になりました」 飼い主さんがオレに頭を下げる。 「すぐに見つかって良かったです。この子心細かったらしく『売らないで』って、随分怯えていたから」 「あ、すみません……それは……」 『売らないで』と言ったのは、迷子になりがちなこの子がそばを離れてフラフラ歩き回らないように『勝手に歩き回るとノンアノさらいが出る』と脅していたかららしかった。 つい微笑んだが、この辺りでは金持ちの家の高いノンアノを狙った誘拐や転売も全くない話ではないらしい。 せっかくコミュニティの住民と会話のきっかけができたので、ついでとばかりに気になることを尋ねてみた。

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