ゴローくんの正論に告白を打ち砕かれてしまったオレは、飼い主としての体面を保とうと必死で踏ん張った。 「そ、そ、そっかぁ。これからもお手伝いしてくれるんだね。ありがとう」 「はい。ハクトさんの役に立ちたいです」 「うれしいけど、オレの役に立とうとしなくてもいいんだよ。ゴローくんがそばに居てくれるだけでオレは幸せだから」 「僕はハクトさんに褒められる時が一番楽しくて、一番幸せです」 「うーん。例え褒めなくてもオレと一緒にいるだけで幸せって言ってもらえるようになれるといいな……」 「……？」 ゴローくんが小さく首を傾げた。 その頬をそっとなでる。 「ゴローくんは、褒めてくれないオレは好きじゃない？」 「好きです。褒めてくれていない時でもハクトさんはやさしくて……」 ちょっと口をつぐんだゴローくんの、空とオレを映す澄んだ目に吸い込まれそうだ。 「ハクトさんに拾ってもらう前に、僕は迷ってずっと街を歩いてました。そのとき、たくさんのヒトとすれ違って、僕は『誰でもいいから飼ってくれないかな』って思ってました。でも、ハクトさんと会ったら、誰でもじゃなくて、ハクトさんに飼ってもらえたらいいなって思いました。ハクトさんは、特別です」 「ゴローくん……」 細いがしっかりと筋肉のついた体をギュッと抱きしめる。 するとゴローくんも、控えめな手でオレの背中をさすってくれた。 ゴローくんの柔らかな頬が耳に擦り付けられると、胸に溜まった愛しさが爆発しそうだ。 「ハクトさんは、僕を見る目が他のヒトと違います。温かくて、そばにいても嫌がられてないって、伝わってきます」 「そっか……」 彼に温かい目を向けていたというなら、コクウも同じはず。 オレが違うとするなら……。 そう、最初からもうゴローくんに惚れてしまっていたってことだ。 再び抱きしめる腕に力を込めると、ゴローくんが風になびくオレの髪を優しく梳いてくれた。 ゴローくんの温もりに腰が砕けてしまいそうだよ。 全く……これじゃどっちが飼い主かわからないな。 「あの、ハクトさん、まだキスはしないんですか？」 しかも冷静に聞かれる。 「あ、す、するよ、する。でもちょっと待って。えーっと、ああもう。あんなに考えまくったのに、告白はもうグダグダだし、どうしよう日を改めてでいいかな……」 「……キスは……？」 小首を傾げて聞かれれば、言葉なんかどうでも良くなった。 「ああ、もう、もう……クールな表情(かお)でキスをねだるなんて、ゴローくんかわいいすぎ！」 ゴローくんにスッと顔を寄せる。 しかし……。 えっ……。 避けられた？ あ、違う。フラついたのか。 「ゴローくんどうしたの？」 なんだかすごく色っぽい顔になってるような……。 「ハクトさんが発情してます」 「えっ、オレ!? 」 あ、ああ！そうだ！ノンアノは飼い主が欲情しているのに反応して発情するんだった。 ………………う。 オレにあてられてゴローくんが発情してると思うと、さらにムラムラしてきた。 「ゴローくん、顔、そむけないでね……」 腰をしっかりホールドして、軽くあごをつかむ。 あ……腰骨に発情したゴローくんの、ほんのり存在感を増したモノがクニュンと当たってくる。 はぁっ……ヤバい。 ゴローくんの息が次第に上がってきている。 顔を近づけると熱い息に唇をくすぐられた。 「ん……」 しっとりとして、ふんわりと柔らかいゴローくんの唇に、そっと唇をあわせる。 くすぐるようにチョンチョンとふれさせると、カクンと膝から小さく沈んだゴローくんが、すがりつくようにオレの背中を掴んだ。 唇の隙間からは熱い息が漏れ続けている。 そこを割ってそろりと舌を差し込んだ。 「っ……」 ゴローくんの背中がピクンピクンと丸まっていく。 ささやかな刺激にさえ甘く痺れる舌をからめ、柔く吸い上げると、ゴローくんの舌がヒクヒクと震えた。 吐息に混じって小さな小さなつぶやきが聞こえる。 「はぁ……ぁハクトさん……ん……僕の……旦那さま……」 のぼせ、潤んだ目にオレを映しながら、ゴローくんがすがってくる腕の力を強めた。 そうしないと崩れ落ちそうなんだろう。 さっきより硬さを増したモノをオレの腰に擦り付けてきているのは、多分無意識……。 「ゴローくん、可愛い……」 「……か……わぃく……なぃ……です」 ギリギリ聞こえる程度の小さな声だ。 そう、ゴローくんは可愛いと言うよりカッコいい。 でもカッコいいから余計に可愛く見えちゃうんだよ……って言っても伝わらないだろうな。 舌で舌をトロリとくすぐると、敏感にゴローくんの腰が揺れる。 「ゴローくん、コレが好きなの？」 ゴローくんが小さく頷いた。 「ハクトさんになら、何をされても好きです」 「っ……そ！そっか。その中でも特に気持ちいいことや嬉しいことがあったらオレに教えてね。ほら、以前好きな食べ物を教えてくれた時みたいにさ」 「はい。こうやってギュッとされるのは、すごく嬉しくて、大好きです」 とろけた顔のまま、生真面目に教えてくれる。 ああ……オレ、ゴローくんのこういうところに弱いんだよな……。 「ゴローくん、可愛い、可愛い、可愛い！もっともっとキスしよう」 「ぁ……ふっ……ダメ……ダメです」 唇を合わせ、深く舌を潜り込ませると、ゴローくんが顔を背けた。 だけどそれを追ってさらに口内を貪る。 「オレにされる事ならなんでも嬉しいんじゃなかったの？」 「あ、あの、キスは嬉しいです。でも、ハクトさんは、いま発情しています」 「うん。ゴローくんが可愛いからしょうがないよね」 「その……外で発情するヒトは多いですが、外で発情してふれあうのは、恥ずかしい事です」 「……え？外で発情するヒトが多いってどういう事？」 確か、飼い主がいないノンアノは色んなヒトの欲情に反応して発情すると本に書いてあった。 実際、オレがゴローくんにムラムラしたのに反応して、ノンちゃんがのぼせてしまっていたし。 だけど、外で発情するヒトが多いって……？ 「ゴローくん!? まさか、最初の家から出て公園を彷徨ってる間に、色んな男に騙されて、犯されて、捨てられてを繰り返してたなんてことは……」 細い体を掴む指に力が入った。 「騙され、犯され？？？えっと、迷って歩いていた時、発情しているヒトとすれ違うと、いつも体が熱くなってクラクラしていました」 「あ、ああ……そういうこと……」 つまり、頭の中のことは他人にはわからないからと、エロ妄想したり、ムラムラしながら歩いてると、飼い主のいないノンアノにはバレてしまうってことか。 「知らないヒトだと通り過ぎればクラクラはおさまります。でも、ハクトさんにギュッとされると、クラクラしてずっと体が熱いんです。もしハクトさんの家なら、寝ればクラクラは治ります。でも外では……困ります」 「え……寝ればって。ゴローくん、もしかして誘ってる？」 ピュアなゴローくんからのおねだり……。 「いえ。僕はノンちゃんのように子どもじゃないので、ひとりで眠れます。大丈夫です」 ゴローくんはどこまでも生真面目だ。 けど、それもまた可愛くて、ついばむようにチュチュっとキス。 「オレに反応して発情してるゴローくんを独り寝なんてさせるわけないだろ？」 「っっ……」 ゴローくんの体が跳ね、そのせいで硬くなったモノがオレの体でこすられ、また身悶える。 「ハクトさん、あの、僕の体が……恥ずかしいコトになってるので……やめてください。ここは、外です。あっちにヒトもいます」 たしかにゴローくんが示す方向にはカップルが歩いていた。 彼らも顔を寄せ合い、時折頬にキスをしている。 そう、ここはデートスポットだ。みんなキスくらいならそこまで気にしない。 「キス以上はしないから、大丈夫だよ。でもいつか外でゴローくんの恥ずかしい姿を堪能してみたいかも」 「いつかではなくて、もう今、恥ずかしい状態です……」 困り顔のゴローくんの口内をトロリと舐め上げると、ギュッと肩をすくめた。 特に上顎の粘膜を優しく舌でなぞると反応がいい。 「ハクトさんに口の中を舐められると、くすぐったいのに、もっとして欲しくなります。でも、体が……どんどん熱くなって、変なトコがビクビクして、どんどん恥ずかしいことになっていくのでやめてください」 律儀に報告するゴローくんの息は弾み、大きな耳が立ったり寝たり、せわしなく動いている。 「大切にするって言ったのに、嫌がるコトしてごめんね。でも恥ずかしいカラダになっちゃってるゴローくんがすごく可愛くて。……こんな意地悪しちゃうオレは、嫌い？」 「っっ……。ハクトさんは意地悪しても優しいから、すき……です。でも外でこんな……」 ゴローくんの視線が慌ただしく動く。 オレと目を合わせる余裕はないようだ。 「そんなこと言われたら、余計に意地悪したくなっちゃう」 「ダメ……んむっ………ん……はぁっ……はぁっ……」 息が弾み、口を閉じることが出来なくなったゴローくんの震える舌を再び口内から誘い出すと、すぼめた唇でじんわり吸って舐め上げた。 「……っふぅっっ……はひ……ハクトひゃん……むぷ……やめ……いまは気持ちイイことは、しないへくらさひ」 逃げ腰ではあるけど、オレを完全に拒みはしない。 だから余計に興奮する……。