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33-チョミちゃんは頼りになるお兄ちゃん
「ゴローくん帰って来たんだろ?お祝いだ!」
勝手口を開けると、コクウがチョミちゃんと共に遠慮なく上り込んできた。
手土産として、簡単なオードブルやサンドイッチ、そしてノンアノも喜ぶナッツたっぷりのパイとアップルパイを持参。
パイ以外、そう手の込んだものはないと言うが、あっという間に華やかで心沸き立つパーティー料理がテーブルに並んだ。
「これはすごいな、コクウ!」
すごくありがたいし、胸が震えるほど感動してるんだけど、これからイチャイチャってタイミングを潰されたせいで、イマイチ感謝しきれないのが残念だ。
ビールを一缶ずつ開け、チョミちゃんとゴローくんはジュースで乾杯する。
「ゴローくん、おかえりなさい!」
チョミちゃんが満面の笑みだ。
「あれ?チョミちゃん、いつの間にゴローくんと仲良くなったの?」
以前は、はっきり、きっぱり、キライだって言ってたのに……。
「昨日の夜と、今日の朝、ちゃんとお耳で挨拶したよ。ゴローくんはね、チョミの弟分になったの!」
「弟分って……」
「最近俺がハマってる歴史ドラマでそういう言い回しが出てくるんだよ」
「いや、そういう事じゃなくて、大人っぽいゴローくんが十三歳くらいにしか見えないチョミちゃんの弟分ってところに違和感が」
「ゴローくんはチョミより二歳くらい年下だろ?それにこの街のこともチョミの方が詳しいしな」
コクウがチョミちゃんの頭をポンポンとなでると、ゴローくんも頷いた。
「チョミちゃんは僕の先輩です」
「うーん、弟分と対になる言葉となると、先輩じゃなく兄貴分かな」
チョミちゃんとゴローくんにナッツ入りアップルパイを取り分けながらコクウが訂正する。
「アニキブン?」
「お兄ちゃんってことだよ」
「お兄ちゃん……」
ゴローくんの頬がサッと紅潮した。
そしてシッポが振られる音がする。
チョミちゃんも猫のようにしなやかなシッポの先端を嬉しそうに振っていた。
ノンアノはヒトと違って兄弟意識が強いからな。
オレとコクウはもちろん、ノンアノ服の店シンエンさんなど、このコミュニティの住民で世代が近ければほとんどはマザーが同じだ。だけど、兄弟って感覚は全くない。
ちなみに八百屋のオウガさんは先代のマザーの子だからおじさんってやつになるのかな?
自分で持ってきたカナッペを口に放り込み、ビールで口を潤すコクウをじっと見つめる。
「ん?どうした?」
「コクウお兄ちゃん」
「え……………」
絶句したコクウの顔がみるみる赤くなり引きつった。
「や、やめろよ!何のAVだよ!」
「そうだよな。ヒトに対して『お兄ちゃん』なんてAVでしか言わないよなぁ……」
「AVってなぁに?その時『お兄ちゃん』っていうの?」
チョミちゃんが興味津々で聞いてくる。
「あー……AVっていうのは、動画だ。ドラマとか見るだろ?その中の登場人物が言ってたなぁって……なっ、ハクト」
「さぁ?オレ観たことないから知らない」
「はぁ?うそつけ!」
どうでもいいような話で盛り上がるオレたちをゴローくんが無表情で眺めている。
それでも、リラックスして座っている姿からして、ゴローくんがこの場を楽しんでくれているのが伝わって来た。
以前のゴローくんはどうしても一歩引いたところがあった。
それは、いつか出て行かなければいけないと思っていたからに違いない。
だけど、ここはもうゴローくんの居場所だ。
「ゴローくん、もっと食べなよ」
「……はい」
オレがアップルパイを勧めると、ゴローくんがゆっくりと口元に運ぶ。
けど、それをヒョイっとチョミちゃんが奪って口に入れてしまった。
「チョミちゃん!? なんでゴローくんの横取りするの?」
焦ったオレにチョミちゃんがフフンと笑う。
「ゴローくんはもうお腹いっぱい!だからお兄ちゃんが食べてあげるの!」
自慢げな顔のチョミちゃんに、ゴローくんが嬉しそうに微笑んだ。
もしかして耳の動きで察したのか。
「そっか。チョミちゃんは頼りになるお兄ちゃんだね」
「うん!ハクトは頼りにならない旦那さまだね!」
「えっ……ちょっと反論しづらいけど、頼りにならないことは……ないよ?多分」
オレたちのやり取りを笑顔で眺めながら、コクウがまたビールを開けた。
そんなこんなで、久しぶりの楽しい時間は三時間ほどでお開きに。
帰り際に、チョミちゃんがお兄ちゃんぶってゴローくんの頭をなでていた。
大人っぽいクールな表情のまま、ちょっとしゃがんでおっかなびっくりそれを受けるゴローくんも愛らしい。
「ハクト、ゴローくんが戻って来て、本当に良かったな。大切にしてやれよ」
ポンポンとコクウがオレの背中を叩く。
「ありがとう、コクウ」
コクウが隣人で良かった。
オレは諦めることなくゴローくんを探し続けられたのは、顔を見るたび進捗状況を聞いたり、探す手段の提案をしてくれた彼のお陰だ。
見上げて微笑むと、コクウが軽く手を広げた。
「ほら、ハクト、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで!」
「っ……気持ち悪りぃ……。ああ、もうとっとと帰れ」
裏路地の端まで賑やかなコクウたちを見送る。
予告なしという、その一点だけを除けば、最高の食事会だった。
コクウの料理はどれも美味しい。
オレもあんな風に作れたらいいんだけど。
……もしかして、元カレにフラれたのも料理がイマイチだったのが一因だったりするのかな。
まあ、ゴローくんの食事はナッツや果物で料理する必要がないから問題ないか。
元カレなんか気にしたってしょうがない。アイツは使い終わったトイレットペーパーの芯と同じだ。
食事の片付けを終え、ゴローくんの入浴音に耳を傾ける。
あ、しまった!今日こそ一緒に入浴したかったのに。
いや、まだ間に合うか……。
いそいそと脱衣所に向かったけれど、ゴローくんはすでに上がってドライヤーをかけているところだった。
しかし……そのパンイチのドライヤー姿が……。
「ゴローくん、そのパンツ……」
「これはノンアノセンターの職員さんが用意してくれました。ノンアノ用のパンツはサイズがないからこれがいいよって」
「そ、そうなんだ」
たしかにシッポを押さえず穿くなら最適だろう。
局部だけをやや派手目な色の布が覆い、穿き口は幅広のバンド。そしてそのバンドの両サイドからやや細めのバンドが尻たぶを持ち上げるように走り、尻の谷間に吸い込まれている。
スポーツマン向けのジョックストラップってやつだ。
でも、布……少なっ!
尻丸出しっっ!
それだけでも充分衝撃的なのに、すでに髪を乾かし終ったゴローくんがドライヤーを当てているのが……。
あ、ああ……可愛い……。
ゴローくんの手が伸びた先はお尻。
ちょっと平たくて鹿のような、とっても小ぶりなシッポが、温風を吹きかけられ、ヒコヒコと揺れていた。
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