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44-もしかしてヤキモチ

「ハクト先生のおかげで盛り上がりました。ありがとうございます!」 普段呼ばれることのない先生という敬称に羞恥心が爆発しそうだ。 「いえ……そんな」 しどろもどろで応対しながら、オレを待っているゴローくんの元へ歩いていく。 「コラムもですけど、小ネタの深掘りがさすがです。そういうネタはどうやって探してくるんですか?」 「いや、別にネタを探したりはしてないです。本に書いてあったことそのままですから」 壁際に立つゴローくんのそばにたどり着くまでの間にも知らないヒトに話しかけれられ、編集さんが紹介してくれる。 「いやあ、お話とても面白かったです」 「それはどうも」 気づけば六〜七名ほどに囲まれてしまっていた。 主賓の先生に話しかけづらく、あぶれたヒトの 一部がこちらに 流れてきたようだ。 誰が誰だかよくわからないまま、先ほどのトークに関しての話をする。 ああ、なんだかオレ、パーティっぽいことしてるなぁ。 そんな事を考えていると、いかにもパーティ慣れしていそうな、背の高い、金髪グレーアイの男性がにこやかに話しかけてきた。 「はじめまして。私、スルガと申します」 すかさず編集さんが紹介してくれる。 どうやら彼はオレと同じ地域在住で、まだ四十代前半の若さにもかかわらず全国展開している有名菓子メーカーの重役をしているやり手らしい。 身のこなしひとつ一つに自信がみなぎっていて、それが彼をさらに良い男にみせていた。 はっきり言ってモテそう。 下手に近づくとヤバそう。 頭の中に小さく警告音が鳴る。 もし、ゴローくんと出会う前だったら、絶対ダメだってわかっていながら遊ばれてしまっていたかもしれないなぁ。 そして当然のようにネコ扱いされ、ベッドを前にして早くも大後悔時代に突入するんだ……。 いや、こんなフェロ系モテ紳士がオレなんかに食指を動かすわけない。 自惚れすぎだろ。 要らぬ想像でモヤっとしながらも、会話は当たり障りのない内容だ。 「へぇ。けっこう近くのコミュニティに住んでるんですね」 「そうですね。古書店の方にも一度立ち寄らせてもらいます」 「ええ、是非」 ひとしきり話していると、ゲストのコーラスグループが歌い始め、会場全体で会話が途切れた。 ……あれ? スルガさんと話している間に、さらにゴローくんと離れてしまっていたようだ。 目礼で会話を終わらせると、すぐにゴローくんのそばに行き、キュッと手を握る。 「彼はハクトさんの恋ビトですか?」 なぜかスルガさんまでついてきて、ゴローくんに会釈をした。 それにゴローくんがぎこちなく会釈を返す。 コーラスが響き渡る中、ふたりに挟まれ、よくわからない居心地の悪さに襲われた。 「付き合って長いんですか?」 「あ、いえ、まだ一ヶ月?二ヶ月?まあ、そのくらいです」 ゴローくんがノンアノであることをわざわざ説明する必要もないだろう。 「へぇ、じゃあまだまだ新鮮ですね」 「え?ええ」 話しかけてくるスルガさんからゴローくんが顔をそらしている。 普段は決して見せない反応だ。 そのせいで、空気がぎこちない。 ……あれ? これって、もしかしてヤキモチ? 「ハクトさんの古書店へはどの道を行くのが一番いいんでしょう」 「下手に抜け道を使うより、普通に国道をそのままが一番だと思います。そういえばスルガさんのコミュニティって、大きな公園がありますよね」 少し前に訪れた、ゴローくんが飼われていたという、あの貧富の差の大きなコミュニティだ。 「ええ、よくご存知ですね。実はあの公園のそばに住んでいるんです。よかったら一度遊びにいらしてください」 「えっ、いえいえそんな……」 話の切れ目でスルガさんが知り合いらしきヒトに声をかけられ、オレはようやくぎこちない空気感から解放された。 そこに担当編集さんがススっと近付いてくる。 「ハクトさん、気をつけてくださいよー?あのスルガさんって、可愛い子大好きで、パートナーがいても御構い無しに手を出して、ポイするそうですよ?」 「や、やだなぁ、単なる噂でしょ?それにオレ可愛い子なんかじゃないし」 「ハクトさんは可愛いです」 ポンと会話に割り込んできたゴローくんの視線が、さっきまで避け続けていたスルガさんの背中に向いていた。 「ほら、カレシさんも心配してますから、気をつけてくださいね。あ、それと、他にも先生に会わせたいヒトがいますんで、まだ帰らずにいてくださいね!」 慌ただしく担当編集さんが去っていった。 「まだ帰らずにって、でももうゴローくん飽きちゃったよね?」 「いえ、別に……」 何度もゴローくんの視線がチラッチラッとオレから外れる。 「ゴローくん、さっきからスルガさんのこと気にしている?」 「……」 この無言は肯定か。 ゴローくんがあのヒトを気にする理由って……やっぱりヤキモチ……?って雰囲気でもないような……。 実はゴローくんの知り合いだとか? そんなわけないか。ゴローくんはそもそも交友関係が広くないし、その数少ない知り合いがこんな富裕層多めのパーティにいるなんて考えられない。 ……。 ……本当にそうか? ゴローくんに金持ちの知り合い。 ズクン。 心臓が不快に跳ねた。 いるじゃないか。 それも……。 それも、あのコミュニティ在住!

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