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45-ゴローくんに飲みすぎを注意される

ゴローくんとスルガさんに面識があるんじゃないかなんて、単なる憶測に過ぎないけど、不安がある以上は、ゴローくんをここにいさせたくなかった。 「ゴローくん、疲れただろう?先に部屋に戻っててよ。部屋は覚えてるよね?十八階だよ」 本来ならもっと安いホテルに宿泊予定だったのだが、パーティの招待客のための部屋が余ったからと、担当さんがオレたちに回してくれたのだ。 「はい。カードキーに書いている番号の部屋を、カードキーであけます。中に入ったら、入り口すぐの差し込み口にカードキーを差すと、部屋の電気がつきます。でも、僕はまだ疲れていません」 「明日病院で検査してもらうんだろ?疲れる前に休んでおかないと」 「……はい。わかりました」 渋々といった風にゴローくんが頷き、オレのジャケットの袖をキュッと掴んだ。 なんだか言いたい事があるのかな。 ゴローくんが時々見せる、妙な遠慮がオレにはもどかしかった。 『家族同然』にはなれても、まだ家族にはなれてないのかも。 この『あとちょっと』を、どうやったら乗り越えられるんだろう。 「ハクトさんは、お酒をたくさん飲むと失敗や後悔をします。あまり飲まないでください」 「えっ……!あ、うん、大丈夫。こんな所で飲みすぎたりしないって」 ゴローくんに飲みすぎを注意されるって……恥ずかしい。 と思っていたら、ゴローくんの視線がまたチラッとあのヒトの方へ。 「……っっゴローくん、さあ、もう部屋に行こうね」 パーティ会場から追い出すように部屋へと送り出してしまった。 ゴローくんの『遠慮』と『意味ありげな視線』にオレは不安をかき立てられて仕方がない。 それもこれも、ゴローくんの視線をオレから奪う、背の高い金髪のあのヒトのせい……。 編集さんに待っていてくれと言われているからオレだけ残ったけど、さっきのトークのおかげか、待っている間も誰かしら声をかけてもらえ、暇を持て余すようなことはなかった。 そうして時間を潰しているうちに編集さんが戻ってきて誰や彼やと紹介される。 オレはただの古本屋なのになぜこんなに紹介されるんだろうと不思議に思ったが、物書きさんには資料集めのツテがあった方がいいらしい。 紹介攻撃も落ち着き、そろそろゴローくんの待つ部屋に向かおうかと考えていると、見計らったように声をかけられた。 「どうぞ」 にこやかにグラスを渡してくる姿もさまになっている。 「ありがとうございます」 スルガさん。 ……ゴローくんが以前住んでいたコミュニティ在住 。もしかすると前の飼い主……かもしれないヒト。 まだ確証はない。 けど、恐らく……。 じゃなきゃ、ゴローくんが普段ないような態度を取るはずない。 このヒトの視線を避けながらも、間違いなく何度もチラ見していた。 「コレ気に入りましたか?じゃあ、もう一杯」 思考に溺れたオレは、一気にグラスを空けてしまっていた。 そこにすかさず次のグラスを渡してくれる。 編集さんの話では彼は、年上に可愛がられ、年下には頼られ、相手次第で顔を使い分けられるタイプ。 そして、モテて、方々で食いまくり。 それで本当にゴローくんの元飼い主だったなら、家ではノンアノを多頭飼いしているわけで……。全く、どんだけ絶倫なんだよ。 時計も靴もスーツもブランド志向。 あの公園で見たノンアノたちも血統の良さそうな美形ばかりだった。 なんでこんなヒトがオレに声をかけてくるのか……。 おかしい。 受け取ったグラスに口をつけながらじっと見上げると、ニコリと微笑まれる。 人好きのする笑顔だけど……。 まさか、ゴローくんに関してオレに何か言いたいことが? 「こっちの赤には、ほら、このチーズが合うんですよ」 飲みかけのグラスを差し替え、ワインとチーズのマリアージュの提案をされる。 反射的に受け取り、ついつい口へ。 「あ、美味しいですね」 オレの言葉にまたニッコリイケメンスマイル。 すごくいいヒトそうに見えるけど……。 「あの、スルガさんってノンアノを多頭飼いしてるんですよね?」 「え……誰から聞いたんですか?嫌だなぁ」 カマをかけてみたんだけど……コレはもう、確定じゃないか? ゴローくんの前の飼い主がどんなヒトなのかずっと気になっていた。 イメージでは冷酷で合理主義で愛想のないヒトだったのに、こんなヒト当たりのいいイケメンだったなんて。 ゴローくんの視線がこのヒトに向いていたのは……まだ情が残ってるから? ゴローくんの元飼い主がどんなヒトだかもっと知りたい。だけどジリジリとして、もう一時(いっとき)も一緒に居たくない。 複雑な心境だ。 スペックでは明らかにオレの負けだしな。 「ノンアノって可愛いですよね」 「ええ、一緒にいるだけでとても癒されます。ハクトさんも飼ってるんですか?」 「……ええ」 このヒト、ゴローくんに気づいてないのか? 一瞬頭が沸騰して、そのタイミングでまたグラスを渡された。 ……オレ、何杯飲んだっけ? ヤバい。 興奮すると酒が回ってしまっていけない。 「ハクトさんも、ヒトとノンアノの両刀使いなんですね 。気が合いそうで良かった。ノンアノとヒト、それぞれに違った魅力があるのに、一方だけを選ばなければなんてナンセンスですよね」 「そう……ですかね」 確かに違いは多いけど……。 「トロンとした上目遣いがとても可愛いらしい」 「ノンアノがですか?」 ウチの場合はゴローくんと身長が同じくらいだから上目遣いされる機会は少ないんだよな。 「いいえ、ハクトさんがです」 「オレ……?上目遣いしてますか?」 「ええ、とても魅力的です」 アンタの飼ってるノンアノと比べたら、花束と雑草くらいの差があるだろ。 心の中で毒づいていると、手にしているグラスの底をチョンと指でつつかれた。 たったそれだけなのに、オレは誘導されるように酒を口に運んでいだ。 ああ、マズいな。 オレ、酔ってる。

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