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52-咲く直前のアサガオの蕾のような

オレはいま、医師ふたりを前に混乱中だ。 「は?え?どういう……?」 そして混乱すると少ない選択肢の中からどうにかしなければいけないと思い込んでしまうもので。 「ホテルに我々が同行するか、個室で(おこな)って提出していただくか。どちらでも問題ありませんので」 ホテルか病院の特別室か。 でもホテルだと医師について来られるんだよな。 「あ、ウチも予算が潤沢に使えるわけではありませんので、ホテルといってもその先にあるラブホになりますけど」 え……あのド派手だけどボロい、ちょっとホラー感すらあるラブホ? 「だったら、ここで……」 ◇ 首都にあるノンアノ病院併設の研究所はマザーのハウスにあった小児病院のように、明るく可愛らしいつくりだ。 そこでゴローくんと再会を果たしたオレは、焼き菓子のように甘く香ばしいケモ耳の香りを堪能する暇もなく引き離され、面談室で担当医師ふたりに説明と報告を受けることとなった。 医師はどちらもニコニコと非常に愛想が良く、ノンアノに懐かれそうなヒトたちだ。 白衣ではなく、ひとりは明るい黄緑の診察衣で、もうひとりはオレンジのポロシャツなのも、親しみやすい印象を与えるのに役立っているんだろう。 年若くメガネをかけているオレンジポロシャツのレキ先生によると、ゴローくんは健康で身体能力も高く、何より病気に対する抵抗力が強いらしい。 将来的に想定されるリスクは運動能力が高い分関節に負担がかかりやすいことくらいだという。 ああ、ウチの子は頭脳だけでなく、体も優秀なんだなと心の中でこっそりガッツポーズだ。 そして予定通り今日の夕方に生殖機能をなくす手術をして、一晩様子を見たら帰宅ということで、同意書にサインなどをしていたんだけど。 「えーっと、ゴローくんからはもう了解を貰っているんですが、手術の前に精液を採取して頂きたくてですね」 「は?」 「可能ならこの小ボトルに二、三本。無理なら一本お願いします」 「え、精液って、それどうするんですか?」 「抵抗力が特に強いこともあり、様々な研究などに役立てさせていただきたいと思ってます。繁殖も想定してますけど……」 「繁殖!?」 「繁殖に使用するのは許可がいただけた場合のみです。無断使用をしたりしませんのでご安心ください」 繁殖ってゴローくんの子ども……? 「えーっと、さらに許可がいただけるなら、採取に同席させていただいて、平常時と勃起時の陰茎のサイズを計らせていただけたらと思うのですが」 「は?」 「お約束通り検査入院中、ゴローくんがイヤだと言うことはしていません。ですので平常時の陰茎サイズも測定しておらず、勃起時に至っては、飼い主さんが居ないと発情しませんから……」 オレが居ないとっていうか、オレが欲情しないとゴローくんが発情することはないから、つまりオレがムラムラしながらゴローくんのを抜いてるとこを、このヒトたちに見られるってことで……。 「いや、無理です!無理!無理!」 「では、同席は諦めます。陰茎の計測を飼い主さんにお願いしても……」 「そ、それも勘弁してください」 「わかりました。残念です」 本当に残念そうにメガネの若い医師が微笑むと、四十代後半くらいのロクショウ先生が身を乗り出した。 「あの、大体でいいんで手でサイズを教えていただけませんか?」 「え……ま、まあ、平常時は多分このくらい?」 指でサイズを示す。平均的なヒトのモノより気持ち小さいかな?くらいの……。 「あ、いえ、飼い主さんのではなく、ゴローくんのサイズを」 「えっ。オレのじゃなく、ゴローくんのサイズですよ!ヒトとほとんど同じくらいです!ぼっ、勃起時もヒトとほとんど変わりません」 「え!そうなんですか!さすがゴローくん。陰茎まで立派なのか……」 「さすがですね〜」 妙に嬉しそうに医師同士頷きあう。 「性的衝動は男性的というか、オスを前面に出しますか?それとも従順ですか?」 「従順……だと思います。ゴローくんはそういうことに疎いから、今ようやく覚えている最中です」 「ああ、なるほど。ゴローくんは素直で純粋なうえ、賢いですから教えがいがあるでしょうね」 何かをメモしながらまたふたりで頷きあう。 「ああ、そうそう、陰茎の形状ですが、どうですか?」 「どうって……普通のヒトよりちょっと細いかな。咲く直前のアサガオの蕾のような」 「アサガオの蕾ってことは先端は皮が余ってる感じで?」 「いえ、咲く直前なんでしっかり張っててその……まあ、仮性?って、これ、話さないとダメですか?恥ずかしいんですけど」 なんだかいたたまれない。 「うーん、精液を採取するところを見せてもらえれば聞き取りしなくてもいいんですけど」 一度諦めたはずなのに蒸し返され焦った。 「同席は無理ですから」 「どうしても無理ですか?私たちはノンアノの身体を見慣れていますし、『可愛らしいな』くらいは思いますが、それ以上におかしな感情を持って見ることはありませんので」 「い、いや、でも多分、ゴローくんは他の子と違うから……」 「そこがどう違うかを知りたいんですが」 「あの、だから、むしろヒトに近いです。ノンアノの可愛い体じゃないので……その……採取と言っても、多分、印象はその……」 「はい」 言い淀むオレに、ふたりが『安心して言ってください』というような優しげな笑みを向けてくる。 「ですから……えー……多分なんですが、オナニーもののアダルト動画のような印象なのではないかと」 「ああーーー……」 メガネのレキ先生がが天井を仰ぎ、年長のロクショウ先生が口元を押さえて横を向いた。 「ヒトっぽいってことは、そうなるか……ああ、そうだよなぁ……ゴローくんだもんな……」 しばしの無言ののち、ようやく完全に同席を諦めてくれたようだ。 「では、ゴローくんの部屋に戻ってもらって、早速採取をお願いします」

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