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56-交尾はしないから、イチャイチャしよう
「はぁ。やっぱり家が落ち着くな」
「はい」
首都からの長距離移動を終え、家へと戻った途端、オレはバタンとベッドに飛び込んだ。
そして同じく疲れているはずのゴローくんが枕元に座って優しく頭をなでてくれる。
「ゴローくん、病院では本当に嫌なことなかった?」
「はい。大丈夫です」
「オレと離れている間、寂しくなかった?」
「このお家 を出て、歩いていたときと比べると全然寂しくなかったです」
「えー、オレ、すごく寂しかったのに」
「これからはずっと近くにいるので、もう寂しくないですよ」
オレを見下ろす微笑が頼もしい。
そして髪をすくゴローくんの手も気持ちいい。
手を伸ばすとゴローくんの太ももにふれた。
のそりと起き上がって、膝枕をしてもらう。
「ゴローくん……」
名前を呼ぶと、顔を寄せ、オレのおでこに優しくキスを落としてくれた。
ああ……なんだかオレがゴローくんに飼われているみたいだなぁ。
「もう……ゴローくん男前すぎ」
「え、何かダメでしたか?」
「全然ダメじゃない。ゴローくんカッコいい。大好き」
「……嬉しいです」
ポフ、ポフ。
シッポが小さくシーツを打つ音がした。
「ゴローくん、かっこいいのに可愛い!」
「嬉しいです。でも発情したらダメですよ」
う……ムラムラしたらすぐバレる。
困ったもんだ。
「交尾はしないから、イチャイチャしよう?」
「今イチャイチャしてますよ」
「もっとだよ。ゴローくんの恥ずかしいところ、全部さわりたい」
甘えるオレにゴローくんが小さく横に首を振る。
「僕は手術の後なので、性交渉も交尾もダメです。ムラムラしたハクトさんが僕をさわって我慢できなくなると困ります」
薄く微笑み、人差し指でスッとオレの唇をなぞった。
ダメだって言いながらそんな惑わすようなこと……。
「ああ、そうです。傷があるのは僕で、ハクトさんは激しい性交渉をしても大丈夫だから、ひとりで気持ち良くなってください」
え……ゴローくん!?
ペットに『ひとりで激しくオナってろ』と言われる飼い主って……。
うう……。
ちょっとへこんでいると、ゴローくんがソロっとオレの首筋をなでてきた。
「僕はここをなでてもらうととても気持ちいいです。ハクトさんはどうですか?」
手のふれたところからゾクゾクと快感が広がる。
「ん……きもちいいよ」
ゴローくんが小さく微笑み、顔が近づいてきた。
「キスも好きです」
そっと頭を持ち上げられ、優しいキス。
「それから、腰をさわられるのも気持ちいいです。ゾクッとして、もっとして欲しくなります」
「そう……なんだ」
ゴローくんの長い指がオレの腰をなぞる。
確かにゾクゾクして……だけどこれじゃ、余計に欲情を高められてしまう。
ゴローくん、一体どういうつもりでこんな……。
「それから、胸も……」
頬を赤らめながらオレのシャツのボタンを外し始めた。
「ゴローくん?」
「はい?」
「何してんの?」
「胸をさわります」
「どうして?」
「ハクトさんにしてもらうと、気持ちがいいからです」
「そ、そう……」
ゴローくんがオレに胸をさわられて気持ちよくなるって、かなり嬉しいんだけど。
「どうですか?」
ゴローくんがオレの胸を大きくなで上げ、乳首を優しくねじる。
「うん、普通に気持ちいいよ」
アンアン言いたくなるような気持ち良さはないけど、オレ的にはこれが最上級。
オレを可愛い子猫ちゃん扱いしようとした元カレのせいで、ココには心理的にガッチガチな抵抗が生まれてしまっているのだ。
それでも……。
ゴローくんがキュッとオレの乳首をつまみ上げ、しっかり勃ち上げてからチュウっと吸い付いた。
チュ……チュ……。
チュプと可愛らしく口が鳴り、ピコン!と揺れた耳がサワサワサワとオレの肌をくすぐる。だけどゴローくん自身も少し耳がくすぐったそうで……。
ゴローくんが小首を傾げ、上目遣いでチラっとオレを見た。
それはまるで母猫にミルクをねだる子猫のようで……。
「だぁぁぁ……ゴローくんかわいいいいいいい」
「うぷっ?」
ギュッと顔を抱きしめ、愛らしさに震える。
「なんだよ。エロくなったり、可愛いくなったり。そういう戦略?ああ、作戦成功だよ。可愛さが上回っちゃったからエロいことはしなくて大丈夫」
「まだ発情してます。いいんですか?」
「うん、大丈夫」
「僕がさわるだけじゃ気持ちよくなれませんか?」
「え、そんなことないけど……」
少し寂しそうな顔になったゴローくんが、キュッとオレを抱きしめた。
「ハクトさんにさわってもらって気持ちがいいところを、僕がいっぱいさわって気持ちよくしてあげたかったです」
「え……」
エロ抜きで可愛いくイチャイチャしたい気分におさまってたのに、気持ちよくしてあげたかったなんて言われたら……。
これ以上ゴローくんの献身を受けてしまって、手を出さずに我慢していられるわけがない。
どうすればいいんだ。
「ゴローくん、じゃんけんしよう!」
「え?」
「じゃんけんでゴローくんが勝ったらゴローくんにいっぱいイヤラシイことしてもらう。オレが勝ったら可愛くイチャイチャだけで我慢する」
「ハクトさん、イヤラシイことって……」
「ゴローくん!じゃんけんポン!」
……。
勝った。
勝ってしまった。
「ゴローくん、もう一回……」
「イチャイチャで我慢ですね」
「いや、もう一回じゃんけん」
「どうしてです?ハクトさんが勝ってハクトさんがしたいことに決まりました」
そうですね。ごもっともです。
「明日……明日はゴローくんに気持ちよくしてもらう」
「はい。明日はハクトさんを気持ちよくできるよう、いっぱい頑張ります」
爽やかすぎる笑顔を向けるゴローくんは、自分が言っている意味を正しく理解できていないんだろう。
なんの遠慮もなくゴローくんにアレして、コレしてとイヤラシイお願いができるなんて楽しみすぎる。
そんな妄想している間にゴローくんがフルフルと顔を振った。
どうやらオレの髪がゴローくんの耳をくすぐってしまっていたようだ。
ペチ!ペチ!
ゴローくんが顔を振るたび、柔らかく大きな耳で頬をビンタをされ、それがまたなんとも心地よくて……。
「ふひゃっ……!また……!」
嫌がられるとわかっているのに耳の先端を口に咥え、ピンクの敏感な部分を舐めてしまっていた。
「いやです!やめてください!いーーーやーーー……」
嫌がるゴローくんの顎を掴んでオレの方を向かせる。
「どんなに泣いても、今夜は離さないよ……」
「なんでですかっ!!!」
少し目を潤ませて、グイグイとオレの胸を押す。こんな必死なゴローくんはなかなか見られない。
「ごめん。一回言ってみたかっただけ」
「意味がわかりません」
耳から口を離して手でクシュクシュかいてあげるとゴローくんがホッと息をついた。
耳の外側からなでる分には嫌がられない。
耳の付け根は、なでるとむしろ気持ち良さそうだ。
だけど、舐めたい。咥えたい。
嫌がられるのをわかっているならやめるべきというのは正論だ。
だけど、嫌がっているのも可愛いし、嫌がっているうちに次第に快感に変わるかも……なんて浪漫には打ち勝てない。
こうやって慣らしていけば、いつかゴローくんの方から『もっとペロペロして』とねだってくれる日が来るかもしれない。
いや今だって、オレが命じれば言葉の上だけでも『お耳をペロペロしてください』って言ってくれるかもしれない。
ああ、口では『してください』とねだりながらも、耳はペタンと伏せられ、涙目で嫌がり、だけど拒絶しきれないゴローくんとか滾 る。
「ゴローくん、明日はどういう風にしてオレを気持ち良くしてくれる?」
「はい。いま、ノンアノセンターでお友達に聞いた、旦那さまが喜んでくれることをいっしょうけんめい思い出していました」
「へぇ、どういうことをするの?」
「はい。マナちゃんという子の旦那さまは、性器の玉の部分をぎゅっと掴んで引っ張ると喜んでくれると言ってました」
「ゴローくん!それ特殊なヤツだから!オレには絶対しないでね?」
「そうですか。フサちゃんという子は、リラックスして寝転んでいる旦那さまの鼻に、お尻の穴をくっつけて座ると喜んでくれるって言ってました」
「それもっと特殊だから!っていうか、性癖じゃなく、単に笑いのつぼにハマっただけの可能性すらあるから。ゴローくんとはガタイも違うだろうし。とにかくやめてね?」
「はい。わかりました。あとは……」
「いや、いい。なんか特殊なことしか覚えてなさそうだから。やっぱりオレがこうして欲しいってお願いしたことをしてくれる?」
「わかりました」
ゴローくんの手がオレをなでる。
その手は慈愛に満ちていて、心地良くて一気に眠気に襲われてしまった。
「ハクトさん、寝るならお風呂に入らないとダメです」
「……うん」
そっか。
『やっぱり家が落ち着く』んじゃない。
ゴローくんのいる我が家が落ち着くんだ。
ひとりの家じゃ晩飯も味気なくて、コクウの家に入り浸ってしまってたくらいだし。
今のオレはもう、ゴローくんのいない家じゃ落ち着けないんだな。
「ハクトさん、お風呂……」
「一緒に入って」
「ダメです。一緒に入ると、ハクトさんはエッチになります」
「今日はならない。さっきじゃんけんしただろ?」
「……わかりました」
この温もりは、本当に、本当に、手放せない。
「……おかえり、ゴローくん」
「え???ただいま?ハクトさん??」
……。
…………。
「あっ、今の寝言ですか?ハクトさん?……ハクトさん……」
頭はフワンと白み、耳に自分の寝息が届いていた。
帰って来たばかりだっていうのに、オレはゴローくんを困らせてばかりだ。
……ダメな旦那さまですね。
そんなつぶやきと、頬にふわりと与えられたおやすみのキス。
ごめんね、ゴローくん。
ゴローくんに迷惑をかけてしまうことすら幸せに感じ、オレは久々の深い眠りに落ちていったのだった。
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