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58-ドミノが完成

オレは畳の上に敷いた板の上に、小さなブロックを取り出した。 「ゴローくん、この板に引いてある線にあわせて、このピースを立てて並べてくれる?板に塗ってる色とブロックの上下に塗っている色は同じにしてね」 唐突すぎる指示にもゴローくんは疑問を持たない。 「はい。頑張ります」 ゴローくんが黙々と並べ始めたのはドミノ牌サイズの木切れ五十ピース。 慣れないゴローくんには少々難しいようだ。 「ぁあ……倒れました」 「もう一回できる?大丈夫?」 「大丈夫です。頑張ります」 オレも手伝ってあげたいけど、下手すると邪魔しかねない。 何度も何度もやり直しているうちにゴローくんも要領をつかめたようで、数十分後ドミノが完成した。 「ああ、ゴローくん、ありがとうね!」 ゴローくんの鼻が誇らしげにヒクヒクと動いた。 「じゃあ、これで準備は完了。これからさらにお手伝いしてもらっていいかな?」 「はい」 「テーブルの上のグラスにジュースを注いでくれる?」 「はい」 ゴローくんが明るいオレンジ色のジュースを注ぐとカタンと音がして、二枚のカードが舞った。 ざっくり言えばジュースの入ったグラスの重さを使って(いしゆみ)の要領でカードを飛ばしたのだ。 そしてこのカードには一つずつ文字が。 「『イ』『ダ』?」 「うん!上手に出来たね。ほかにもお手伝いして欲しいことがあるんだ。全部のお手伝いが終わると『ゴローくんが思ってることがわかる』っていう趣向だよ」 次にゴローくんを促し、窓際に行く。 窓の外には小川が涼やかな音を立て、鳥がチイチイと鳴いていた。 そしてそこに予め設置しておいた(まと)が。 「ゴローくん、このゴム鉄砲であの三つの的を打ってくれるかな?」 この的もゴム鉄砲も、もちろんホテルに許可をもらって設置していたものだ。 ゴムの装填のしかた、構え方、撃ち方を教えると、ゴローくんが一生懸命的に向き合った。 最初から的の端っこに当たった。 もう少ししっかりと当たると的がひっくり返って裏の文字が見える筈だ。 おっかなびっくりだったゴローくんが次第に夢中になり始める。 ……ゴム鉄砲なのに、構える横顔がカッコいい。 シパン! 気持ちの良い音を立てて、ゴローくんが最後の的を打った。 「『ン』『サ』『ト』……ですね!」 歓喜するゴローくんの笑顔がまぶしい。 「ゴローくん、上手!すごくカッコ良かったよ」 ちょっとだけ鼻高々な気分をにじませゴローくんが頷く。 「上手に出来て良かったです」 「じゃあ、次は探し物をしてくれるかな?このカードに書いてある場所を探して。そこに文字が隠れてるよ!」 「はい!えーっと『ふすまのうら』です」 ゴローくんがカードを読んで、ちらっとオレの顔を見た。 少し考えて携帯端末を取り出し、何かを検索する。 以前、電子決済以外の携帯端末の使い方を教えはしたけど、ゴローくんがこうやって自分から使うのは初めてかも知れない。 「『ふすま』は……この扉のことですね」 一生懸命なゴローくんを見ているだけで嬉しくなる。 「カードが二枚くっついてます。取っても大丈夫ですか?」 「うん」 「『ク』ですね」 回収したカードを嬉しそうにオレに見せると、すぐにもう一枚の出題カードを読んだ。 「ポットのした」 キョロキョロと見回し、すぐにポットに駆け寄ってカードを回収する。 「『ハ』です!」 「すごい!見つけるの早かったね!ありがとう!」 ゴローくんの頬がふわっと紅潮していく。そしてオレの手をギュッと握った。 「次は何かお手伝いありますか?」 「うん、次で最後だよ。その前に今まで集めた文字を見てくれる?」 「グラスにあるのがイ、ダ……」 「んー、一番新しい文字から読んで」 「はい『ハ、ク、ト、サ、ン、イ、ダ』」 「あ、最後は『ダ、イ』でお願い。で、次のお手伝いをしたら、とても大切な文字が出るから。さっき一生懸命並べてくれたドミノがあるよね、あれの端っこをチョンと押して倒して」 「せっかく並べたのにですか?」 「さっきのは準備で、倒したら完成なんだ」 「はい」 ゴローくんがそろそろとドミノに近づく。 傍目からもわかるほどドキドキと緊張している様子だ。 「それを押したら文章が完成して、ゴローくんの気持ちが出てくるよ」 「集めた文字は……ハ、ク、ト、サ、ン、ダ、イ……」 ゴローくんの綺麗な指がドミノの端を押した。 シパシパシパとドミノが倒れ、現れたのはハートマークと二文字。 「『スキ』です!」 「ゴローくん、お手伝いありがとう!」 「……!」 紅潮したゴローくんがオレの背中にきゅうっとしがみついてきた。 ……よ、良かった……。 ゴローくんがものすごく喜んでくれてる。 ここに来る前に『旅先で毎度ゴローくんに告白しても反応薄だ』と嘆いたオレに『気持ちを押し付けるだけの告白で喜んで貰えるわけないだろ。感動させたいなら、まずはゴローくんを喜ばせろ』とコクウが助言をしてくれた。 そして提案されたのが『お手伝い作戦』。 ゴローくんは『お手伝い』と『ゴローくんに好きと言われたオレが喜ぶ姿』が大好きなのだ。 しかしコクウの提案に沿って考えた、自分への好きだというメッセージ入りの仕掛けを作るのは、とんでもない羞恥地獄だった。 あの恥ずかしさに狂った日々が、今日ようやく報われたのだ。 「せっかくなら胸に飛び込んで来てよ」 グイグイとシャツを引いてゴローくんを抱きしめた。 「僕、上手にお手伝いできましたか?」 「うん、とっても上手だったよ」 「ハクトさん……喜んでくれましたか?」 顔を覗き込んでくる視線も声も、トロリと甘い。 「うん。ゴローくんが楽しみながら一生懸命お手伝いしてくれてすごく嬉しい」 メンタル崩壊しそうな恥ずかしさを乗り越えたからこそ、こうやってゴローくんの蕩け顔を見られるんだ……。 グラス、的、カード、そしてドミノへと視線をやり、ゴローくんが再びオレを見つめた。 「『ハクトさんだいすき』です」 カードに書かれたメッセージはゴローくんが大好きな言葉。 「本当?」 「はい。大好きです。僕の旦那さま。大好き。大好きです」 ゴローくんがぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。 「オレもゴローくんのことを大好きだよ。ずっと一緒だからね」 「ハクトさん、僕、とっても、とっても嬉しいです」 感動に潤んだ目。 そう、これが見たかったんだ! すっと顔が近づき、ゴローくんの方からキス……。 そしてねだるように舌先を軽く吸われる。 「ふ……んっ……」 ゴローくんからこんな色っぽいキスをしてくるなんて。 音が立つほどに舌を絡めあい、ゴローくんの腰をさすると、ゴローくんが熱いため息をついた。 そしてオレの首筋に頬を擦り付ける。 「ハクトさん……もっと発情してください」 「え……」 空耳か……? いや、たしかにゴローくんが……。 「じゃ、ゴローくん、オレが発情するお手伝いをしてくれる?」 「どうやったらいいですか?」 ああ、ゴローくんがヤる気になってる。 「そうだな。オレがゴローくんにした事や、してもらった事で、一番恥ずかしかったのは何?」 「一番は……僕の、か、体が恥ずかしい状態なのに、お外でキスするのをやめてくれなかったのが恥ずかしかったです」 「あ……そうなんだ。ごめんね」 でも、それは多分またやっちゃう……。 「その次は?」 ゴローくんは説明しようと口をパクパクさせ、言葉を見つけられずにあきらめて跪いた。 そしてオレの体に顔を寄せ、服の上から股間に一瞬だけ唇をふれさせる。 「ソレ、恥ずかしかったんだ?」 「はい」 「オレが欲情するためのお手伝いとして、ソレをお願いしたら、恥ずかしいの我慢してやってくれるかな?」 「………………」

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