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第2話
早乙女天馬は、二ヶ月前に五代目頭だった白石雪柊 から六代目ルシファー頭を引き継いだ。
正直、自分が頭をやるなど微塵にも思っていなかった。
自分には向いていないと何度も断ったのだが、雪柊に、跡目にはおまえしかいない、と懇願された。なぜ、雪柊が自分を選んだのか、その理由は未だにわからなかった。
尊敬する雪柊にそこまで言われてしまえば、それ以上断る事もできなかった。
天馬は中学二年の時、当時四代目頭であった太刀川玄龍 に助けられた事がきっかけで、ルシファーに入る事になった。
当時、天馬は暴力団柿崎組の覚醒剤の売人と運び屋のような事を中学生ながらにやらされていた。理由は母親の買い物依存症による借金の返済の為だった。
中学生が覚醒剤売買の手伝いをさせられていると玄龍が聞きつけ、柿崎組と敵対する暴力団公和会の組員に初代ルシファーのメンバーがおり、その人物にその事を伝えると、その人物からリークされた形で警察に話しがいき、柿崎組はあえなくして組長をはじめ組員全員が逮捕された。
天馬もその時に捕まり、鑑別所で半年過ごす事になった。
出所後は、父親の元で暫く過ごしたがすでに再婚していた父親の元にいるのは居心地が悪く、中学卒業と同時に父親の家を出た。
そして、鑑別所を出てすぐの頃、玄龍が自分を訪ねてきた。
『ルシファーに入れ』
そう言われた。
おそらく、中学生の自分とヤクザを切るに為にその方法しか無かったにせよ、自分がした事で天馬が鑑別所に入ってしまった事に責任を感じたのかもしれない。
『ルシファーがおまえを守ってくれる、おまえの光になるだろう』
そう玄龍は言った。
玄龍は、自分に何かと目をかけてくれ、弟のように可愛がってくれていた。
天馬にとって玄龍が光だった。尊敬と憧れ、そして玄龍に、恋心を抱いていた。
酷い母親だったせいか、どうしても女を好きになれず、だが、男が好きなのかと聞かれれば、それも違う気もした。女を抱く時もあれば、男に抱かれる時もあった。
自分は、所謂バイセクシャルなのだと気付いたのは、しばらくしてからだった。
宗方に顔を近付けた時、その玄龍と宗方が被り、一瞬心臓が大きく鳴った。
切れ長の鋭い眼光を放つ目と、ガッチリとした男らしい体型が似ていると思った。
それに気付いた途端、無性にこの男が欲しくなった。手元に置いておきたい、そう下心にも似た欲求もあったのは確かだった。
もちろん、無知な宗方がこのままだと、この町の不良共に毎日狙われて続けるのも不憫にも思った。この先宗方は、普通に町を歩く事も、おちおち眠る事すらできなくなるだろう。
ルシファーに入れば、自分が間に入る事によって平穏な日々が送れる、入る気になったらブラックキャットに来い、そう宗方に言った。
結局、その日宗方は、
『少し、考えさせて下さい』
そう言って帰って行った。
天馬の勘では、宗方は十中八九ブラックキャットに来るだろうと思った。
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