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第3話
ブラックキャットは代々ルシファーの溜まり場のバーで、夜はバー昼間は喫茶店に変わる。
昼間の時間帯に、ルシファーのメンバー以外の客は見た事はない。ルシファーの溜まり場と知っていれば、誰もこの店に近付く者はいない。
三日後、天馬の予想は当たり、宗方太陽がブラックキャットに現れた。
その顔には、痛々しくガーゼと絆創膏で埋め尽くされていた。店にいたメンバーも目を丸くして宗方を見ている。
その顔を見て天馬は思わず吹き出した。
「ぶっ!何その顔!」
「……」
宗方は所在無さげに目を伏せている。
「で?ここに来たって事は、腹は決まった?」
天馬はソファから立ち上がると、片目の宗方の目を覗き込んだ。
「はい……」
宗方は真っ直ぐな目を天馬に向け、
「あなたについて行きます」
そう言って宗方は頭を下げた。
天馬はその言葉に面食らう。
ルシファーに入れて下さい、入りたいです、でもなく、あなたについて行きます、とこの男は言った。
自分の顔が熱くなったのを感じた。
誤魔化すようにタバコに火を付けると、
「一ちゃーん」
カウンターにいた、村上一を呼んだ。
「なんスか?」
「暫く面倒見てやって」
「ええー⁉︎オレ⁉︎」
「おまえと同い年だ。じゃ、宜しくー」
そう言って手を上げ、不満を洩らす一の言葉を無視し天馬は店を出た。
「あ、あの……!」
店を出た途端、宗方が追って来た。
「何?」
「これで、不良に絡まれなくなるんですか?」
「なるよ」
(不良……おまえもその不良になるんだけど)
天馬はその言葉を飲み込んだ。
「おまえ、バイクの免許持ってる?」
「いえ……」
「じゃあ、免許取ってきて」
「え?」
「バイクはオレのあるから、免許取ったらオレの専属の運転手に任命してあげるよ」
そう言って、ニヤリと笑い宗方の肩を叩いた。
「そうすれば……」
宗方はそう呟くと、玄龍に良く似た目を天馬に向け、
「あなたの傍にいれますか?」
そう言った。
天馬は呆然と宗方を見た。表情を変える事なく、真っ直ぐ天馬を見つめている。
「あ、ああ……そ、うだな……オレ運転苦手だから、おまえが免許取って、運転してくれると助かる……」
「わかりました」
宗方は軽く頭を下げると、再びブラックキャットに入って行った。
「なんなの……あいつ……」
まるで愛の告白を受けたような、気恥ずかし気持ちになり、天馬の頭は混乱した。
約束通り天馬は、宗方が揉めていた英信をはじめとする高校とギャングチーム、暴走族に話を付けた。
《十河工業の宗方太陽はルシファーのメンバーとなった。宗方と揉める事はルシファーを敵に回す》
各方面にそう宣言した。
一番厄介だと思った英信高だったが、現在の頭である灰原壮介はあまり関心がなかったようだった。元々、灰原は過去稀にみるやる気のない頭で、表面上同盟を組んでいるルシファーとしては頼りないところだったが、こちらとしては付き合いが楽で助かっているのも確かだった。
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