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第6話
「おまえ、メシ食べた?」
「いえ……」
「なんか作ってやるから、少し寄っていけよ」
「あ……はい」
宗方はエンジンを切ると、駐輪場にバイクを停めた。家に入れるのは初めてだった。三階の角部屋の前に来ると、ウォレットチェーンから鍵を取り出し、扉を開けた。
「失礼します……」
宗方はおそるおそる、そして頭がぶつからないように頭を軽く下げながら中に入った。
1Kのその部屋には、テレビとソファとベットしかないシンプルな部屋。
「随分とサッパリした部屋なんですね」
宗方は興味深げに見渡している。
「帰ってきてシャワー浴びて寝るだけだし。まぁ、座れよ」
宗方はライダースを脱ぎ、ロングスリーブ姿になると大きい体を丸くしてちょこんと、ソファに腰かけた。
「ナポリタン好きか?」
「あ、はい」
天馬は冷蔵庫から食材を取り出し、そのうちフライパンの焼ける音が聴こえてきた。
宗方は落ち着かないのか、少しソワソワしているように見えた。それを天馬は内心ほくそ笑み、フライパンを振る。
「ほらよ」
目の前にナポリタンを出してやると、丸くした目でそれを見ている。
「頭は食べないんですか?」
「オレ、賄い食べたから」
「そうなんですね。じゃあ、頂きます」
そう手を合わせ、フォークを手にした。
天馬はタバコに火を付け、それを眺める。
麺を口に入れ一口飲み込むと、
「うまいっす」
そう、キラキラした目で嬉しそうに言うと、口一杯にナポリタンを頬ばり一気に食べ始めた。
天馬はそんな宗方の表情に、
(可愛いなー、おい)
無意識に、ふっと笑みがこぼれる。
少し気恥ずかしくなり、誤魔化すように天馬はキッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウオーターを持ってくる。それを宗方に渡し、自分も蓋を開けた。
「てかさ、なんで今日に限って迎え来たの?」
今まで、バイト先まで迎えに来ることはなかった。それが少し天馬には不思議に思え尋ねてみる。
宗方は一旦食べる手を止め、動きを止めた。
「バイトが早く終わったからって、さっき言いました……」
「ふーん……」
タバコに火を付けたところで、頭の……と、口を開いた。
「頭の顔が……見たくなったって理由じゃダメですか?」
そう言って、真っ直ぐな目を向けられた。
思わず咥えていたタバコを落としそうなる。
「あ……そう……」
そう返すのがやっとだった。顔が熱くなり自分は今、絶対に顔が真っ赤だと思った。
「オレ……シャワー浴びてくるわ」
そう逃げるようにソファを立った。
シャワーから出ると、下はハーフパンツ上半身は裸という出で立ちで、タオルで頭を拭きながら浴室を出ると、宗方はキッチンに立ち、皿を洗っていた。
「いいよ、オレやっとくから」
宗方は天馬を見ると、慌てたように目を逸らした。
「?」
その様子に天馬は不思議に思ったが、上半身裸の天馬の姿に、目のやり場が困ったのだろう。
(照れんなよ……)
そう心の中でほくそ笑み、手にしていたロングスリーブに腕を通した。
「やります、これくらいは……」
「コーヒー淹れる」
そう言って、天馬はコーヒーメーカーをセットした。
「ずっと聞きたかったんだけど、おまえさ、なんで喧嘩しまくってたの?」
今更な気はしたが、ずっと疑問に感じていた事を口にした。
「おまえ、喧嘩するタイプには見えねーし」
「……」
水道を止めたのを見ると天馬は、肩にかけていたタオルを宗方に渡してやる。宗方は受け取り手を拭くと、
「言わないと……ダメですか?」
そう言って目を伏せた。
「ダメだな」
コーヒーメーカーに視線を向けている宗方を天馬はジッと見つめた。
天馬は棚からマグカップを二つ取り出し、コーヒーを注ぐ。
カップを手にすると天馬は軽く宗方の脛を蹴り、リビングに行け、とばかりに顎を上げた。
ソファに並んで座りコーヒーを渡してやる。天馬は宗方が口を開くのを静かに待った。
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