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第9話

その日、天馬は頼んでいたデニムが届いたと行きつけの店から電話があり、学校が終わった宗方を連れ、その店へと向かう。 「ついでにメシ、食っていくか」 天馬は隣の宗方を見上げて言った。 「はい」 191センチの宗方はとにかく目立つ。行き交う人が必ず宗方に目を向けている。175センチの天馬は必然的に宗方を見上げる形になる。 その隣を歩く天馬の端正な顔立ちに、振り返る人もチラホラといた。 「何食べたい?」 「なんでも」 「女に聞かれてもそう言うの?おまえ。それだと女にモテねーぞ」 呆れた声を宗方に向けた。 「別に、モテなくていいです」 「嘘つくな。青春真っ盛りの青少年がそんなんでどうする」 そう言って、宗方の尻に軽く蹴りを入れた。 天馬は一本通りを中に入り、小川が流れる遊歩道を歩く。 目当ての店に天馬は入ると、 「オレは外で待ってます」 自分は場違いだと思ったのか宗方はそう言った。 「食いたい物、考えたおけよ」 宗方は黙って頷いた。 店長と雑談をしながら、ふと外に目を向けた。 宗方が誰かと話していた。黒いジャージ姿のその男は、191センチの宗方と同じくらいの上背のある男。その男は宗方の腕を掴んでいるが、その手を宗方はやんわり振りほどいている。 店長に挨拶をし、外に出た。一見修羅場に見える二人の側に歩み寄る。 タバコに火を点け、 「むーなーかーたー」 小首を傾け宗方を呼んだ。 二人は同時にこちらを見た。 「頭……」 「帰ろ?」 宗方はジャージの男に背中を向けた。そのジャージの胸元に《TENNOH》と書いてあり、腕には《間宮》の名前が目に入った。 (こいつが、間宮……) 間宮とおぼしき男を横目で見ると、少し怯えた様子で天馬を見たが、 「宗方!」 間宮は宗方に視線を戻すと名を呼んだ。 「もう、話しかけてくるな……」 振り返ることなくそう言い放った。 「行きましょう、頭」 「いいのか?」 「はい」 天馬は一度振り返り、間宮を見ると悔しそうに俯き、小刻みに震えていた。 「あいつがこの前言ってた間宮?」 「……はい」 皺が寄っている宗方の眉間を天馬は親指で擦った。 「頭……やめて下さい」 「で、何食う?」 グリグリと眉間を擦りながら聞くと、 「肉が、いいです……」 そう宗方が言うと、天馬は手を頬に移動させた。 「肉食男子っぽくていいね」 添えた手を軽く叩き、そう言った。 天馬は、宗方と間宮が何を話していたのか気になったが、自分から聞くことはしなかった。 そちらの世界のことは自分には関係のないことだ。 それに大方の予想はついている。おそらく、戻って来い、もしくは、またバスケをやろう、そんなところだろう。 もし、宗方がもう一度バスケをしたいと言えば、引き止めることはしない。ルシファーを辞め、またやればいいと思う。極道のように簡単に辞められないという世界ではない。 ただ、宗方がいるのが当たり前過ぎて、宗方がいなくなるということが天馬には想像ができなかった。

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