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第11話

(はやっ……) 天馬は宗方の動きの早さに目を見張った。隣にいる少年たちも口をポカンと空けている。 あの身長とガタイの良さからすると、動きは遅いと思ってしまうが、その考えを一瞬で打ち消されるスピードだった。 そのままドリブルすると、リング下の男が呆然と宗方を見ている。 「ディ……!ディフェンス!」 リング下の男はハッとしたように宗方の前に立ちはだかる。宗方はそのディフェンスを物ともせず、男を軽く交わすとレイアップシュートを決めた。 リングをくぐったボールを片手で掴むと、 「次」 そう言って、ボールを相手に渡した。 「た、たまたまだろ!」 「次は本気で行くぞ!」 今度は相手は上背の有るメンバーを変え、もう一度対峙する。 ボールを渡された宗方はダムダムダム……とリズム良くボールをつく。宗方が僅かに左側に体を傾けた。目の前の男がピクリと動き、その瞬間、真ん中を抜いた。フェイクだった。そのままゴール下の男と向き合う。何度かその場でボールをつくと、ジャンプシュートのフォームをした。先程のリバウドの男より上背のある男がボールに触ろうとジャンプした。 (ブロックされる?) 相手の男の手が、宗方に届きそうに見えた。 が、宗方の体が少し後ろに傾いたように見えそのまま、ボールから手を離すとパサッとボールがリングをくぐった。 「嘘!フェイダウェイシュート⁉︎」 少年たちが興奮したように言っている。 「何その、フェイダなんちゃらシュートって?」 「フェイダウェイシュートだよ!」 「相手のディフェンスを後ろに体を傾けて(かわ)しながら放つシュート!」 「あれ、めちゃくちゃ難しいんだよ!」 「へぇー」 少年の興奮気味のリアクションを見ると、相当難易度の高い技なのだろう。 (あいつ、本当にすげーんだな) 宗方は一つも息を乱すことなく、ボールを拾っている。相手の男たちはボールにすら触れていないのに、息が上がっている。さすがに只者ではないと感じているのだろう。 「あのお兄さん、何者なの⁉︎」 少年たちが天馬に尋ねる。 「ほんの少し前まで、魁星バスケ部で某有名マンガの主人公と同じポジションやってたんだってー」 「某有名マンガ?もしかして……」 少年がそのタイトルを口にする。 「パワーフォワードって事?」 「そう、それ」 天馬は少年を指差す。 「魁星ってあの魁星で⁉︎」 「マジ⁉︎あの人たちなんか敵うわけないよ!」 少年たちは興奮気味に顔を合わせている。 「ラスト」 そう言って宗方はボールを掴む。 「こ、こいつ……」 「素人なんかじゃねー……」 一人がハッとしたような顔をし、 「お、思い出した!こいつ魁星の宗方!」 宗方を指差した。 「え?ええー!!」 「去年のインターハイ予選見に行った時、魁星のスタメンだった奴!雰囲気変わってて気付かなかった……」 男たちは指先でボールを回している宗方を呆然と見た。 「早く、ラスト」 指を弾き、左手にボールを収めるとボールをつき始めた。 最後は宗方の豪快なダンクで終わった。 まるで、羽根が生えたように高くジャンプし、リバウンドをする男の上からボールを叩き込んだ姿は圧巻だった。 正直、天馬はその姿に見惚れた。素直にかっこいいと思った。 そしてなぜだか、天馬の腰がゾクゾクと疼き出した。 「かっこいい……」 少年たちも無意識に口から出ていたようだった。 「ま、参った……」 「まさか、魁星の宗方だったなんて……」 男たちもさすがに項垂れている。 「譲ってやってくれるか?」 「ああ、悪かったよ」 そう言って、男たちは少年たちに目を向けると、 「使っていいぜ」 そう言った。 その言葉に少年たちは嬉しそうに、コートへ走って行った。 「ありがとう、お兄さん!」 「今度、バスケ教えて!」 少年たちは宗方を囲んだ。 「で、できればオレたちも……」 男たちも照れたように言っている。 宗方は困ったような顔をし、 「気が向いたら……あと、オレもう魁星じゃないから」 男たちと少年たちはキョトンとした顔を浮かべているのを尻目に、宗方はコートに背を向けた。 「待たせてしまってすいません……」 「いや……なんなら、もっとやってても良かったけど?」 もっと、見ていたかった。宗方がバスケをしているところを。 「え?いや……オレはバスケ辞めた人間ですから」 そう言って、目を伏せた。 天馬の体が火照っていた。ズクズクと腰が疼き、下半身に熱が篭り始めている。宗方の先程の姿に、天馬は欲情していた。 (すげえ……ムラムラしてる……) 宗方がハンドルを握り天馬は後ろに座る。いつもなら、なんとも思わない宗方の腰を掴む手に躊躇いを感じた。 「頭?」 いつまで待っても回されない腕を宗方は掴み、 「ちゃんと掴まって下さい」 無理矢理腰を掴まされた。 「あ、ああ……」 ドキドキと鼓動が速くなる。 何とか目を閉じやり過ごそうとするが、先程の宗方の光景が瞼に焼き付き、目を閉じている方がまずいと思った。

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