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第14話

その週末、バイトが終わるといつものように宗方が待っていた。最近は週末になると、宗方が迎えに来てそのまま天馬のアパートに泊まっていく、という日々を送っていた。 バイトが終わり店の外に出ると、ミリタリーブルゾンを羽織った宗方の背中が見えた。 女二人と話していた。 無意識にムカッとし、天馬はその光景に苛立ちを感じた。 「宗方」 宗方は肩をびくりとさせ、振り向くと戸惑った顔を浮かべていた。 「あ、お疲れ様です……」 目の前の二人組は、頬を染めながらコソコソと話し、美丈夫な天馬の登場に更に期待を込めた目を向けている。 「何?あんたら?うちの宗方に何か用?」 「これから一緒にどうかな、って。ねえ?」 隣の女に同意を求める。 「あなたも良かったらどう?」 目の前の女は、20前後に見えた。谷間を強調するシャツとVネックのニット姿。 天馬はその姿を冷ややかな目で見る。 「おまえが行きたければ、行ってくれば?」 そう宗方を突き放すように言うと、宗方の前を通り過ぎる。 「ちょっ……頭!どこ行くんですか!」 宗方が慌てたように、追いかけてくる。 「家、帰るんだよ」 「どうやって帰るつもりですか」 「歩き!」 そう言って、荒っぽく掴まれた腕を振りほどく。 グツグツと腹の奥で燻りのような物を感じた。 だが、またその腕を掴まれた。 「離せよ」 「……」 宗方を見ると、無表情なまま天馬を見下ろしている。そして強引に腕を引かれ、バイクまで連れて行かれる。 力でこの男に敵うはずはない。 無理矢理ダンダムシートに座らされ、ヘルメットを荒っぽくかぶせられる。前に宗方が乗りエンジンをかけると、天馬のアパートへとバイクを走らせた。 天馬はヘルメットの下で不貞腐れた顔を浮かべていた。 アパートに着くと、当然のように宗方も部屋に付いてくる。 鍵を開け中に入ると、宗方に腕を掴まれベットに押し倒された。 「何?おまえ、今日は随分と強引じゃん」 表情を変えない宗方に、少し焦りを感じながら言った。 「いやですか?強引なの」 無表情の中に雄の顔をした宗方の表情に、天馬はゾクゾクと身震いした。 「……嫌いじゃない」 そう言って、天馬は宗方の首に長い腕を回した。 女と話している宗方を見て、苛立ちを感じた。 最後まではしていないものの、今は男の自分と肌を合わせている関係の宗方に対して、焦りのようなものを感じてしまった。宗方自身、見た目も悪くはなく、女にモテないタイプでもない。現に逆ナンされるほどだ。 いつか自分に興味がなくし、女の元にいってしまうことに、不安に感じてしまっていた。 目の前には宗方が穏やかな寝息をたて眠っており、今は玄龍に似たその目は今は閉じられている。 自分は宗方を玄龍の代わりにしていたのではないのか。 (何これ……まるで、宗方のこと好きみたいじゃん……) 自分のその思いに天馬は戸惑いを感じた。 その時、宗方の目が薄っすらと開いた。 少しぼうっとすると、目の前の天馬と目が合う。不意に宗方の腕が伸び、天馬を引き寄せ腕の中に収めた。 「おまえさ……」 宗方の厚い胸板に顔を埋め、天馬がふと口を開いた。 「彼女とかいたことある?」 「……はぁ、まぁ……ありますけど」 その質問に戸惑っているようだった。 「じゃあ、忘れられない人とかは?」 「……」 天井を見上げ、しばし考えているようだった。 「いないです……そこまで経験豊富じゃありませんから……」 でも……、と言葉を続けると、 「頭がそういう存在になるかもしれません……」 サラリと言われ、天馬はその言葉を聞き流しそうになったが、思わず目を丸くして宗方を見た。いつもと変わらない表情で、天馬を見つめている。 「頭は……いるんですか?そういう人が……」 その質問に真っ先に玄龍の顔が浮かんだ。 「ああ……いるよ」 宗方に背中を向けると言った。 「気持ち、言わなかったんですか?」 「言えるわけねーよ。男に言われても困るだけだと思ったし」 「男の人ですか?」 「ああ……でも、いつの間にかその人には恋人ができてた。それもすげー美人。オレなんて足元にも及ばない」 そう言って苦笑いを浮かべた。 当時その相手が同じ男であったことに、少なからずショックを受けた。もし、自分が気持ちを打ち明けていれば、チャンスはあったのかと。だが、それはないのだろうと天馬は思う。おそらく女とか男とか関係なく、あの人だったからそういう関係になったのだと。だから、きっと自分が気持ちを打ち明けたところで、叶うことはなかったのだと思う。 宗方はまさか、自分がその玄龍に似ていて、天馬が玄龍の面影を自分に重ねているなどと思っていないだろう。 「この先、あそこまで好きになる人はいないかもしれない……」 ふと、宗方の体温を背中に感じた。 「オレは今……凄く嫉妬しています。その人に……」 天馬を抱く腕の力がこもった。 「宗方?」 顔を向けると唇を塞がれた。天馬は体を宗方に向けると、宗方は両手で天馬の頬を挟み込むと深く口付けてきた。

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