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第15話

その日宗方に、行きたい所がある、そう言って宗方を連れ出した。 行き先は、県で一番大きい総合体育館。 会場に着くと、宗方はバイクから降りようとしなかった。 「降りろよ」 「オレは行きません……」 宗方は目を伏せて言った。 「今日は魁星の試合はないから大丈夫だよ」 「そういう問題じゃありません」 「あ、そう……じゃ、そこにいれば?」 そう言って、天馬はスタスタと歩いて行く。 天馬は物珍し気に周囲を見渡した。 体育館の建物には、インターハイ予選を知らせる横断幕。周りは制服姿、ジャージ姿の高校生が賑やかに行き交っている。保護者や観戦客らしき一般人もいたが、それでも天馬の存在は浮いているように思えた。 すれ違う人が自分に目を向け、天馬の着ているルシファーのTシャツ姿を見てギョッとする人もいた。 その時、隣に気配を感じた。宗方がいつの間にか隣を歩いていた。 ただでさえ美丈夫な天馬は人目を引いたが、宗方が隣にいることで更に人目を引いた。 中に入ると、大歓声が耳を突いた。 「あれって……魁星だった宗方じゃねーか?」 「あいつ、傷害事件起こして、魁星辞めたんだよな?」 そんな声がコソコソと聞こえた。 宗方は聞こえているのか、所在なさげに目を伏せている。 前から黒いジャージ姿の軍団が歩いてくると、周りがざわつき始めた。 「天王寺だ!」 「あれが間宮?」 「間宮くん、かっこいい!」 周囲は天王寺のために道を開け、端に寄っているが天馬と宗方は行く手を阻むように真ん中に立った。 「宗方……」 間宮は目を丸くしてこちらを見ている。 「先、行ってるぞ」 一番先頭にいた男が言うと、天馬と宗方の脇を通り過ぎる。その時、チラリとその男が宗方を見やると宗方もその男を見た。 「おまえがいなくなって、魁星はかなり厳しいみたいだぞ」 そうすれ違い様に言った。 宗方は戸惑ったように口を噤んでいる。 「試合何時から?」 「十一時からです」 天馬は腕時計に目を落とす。あと、三十分程で試合開始だ。 「まぁ、頑張って」 少し照れたように間宮は笑みを浮かべた。 「見ててくれよ、宗方」 そう言って、宗方の肩を叩き走って天王寺の選手の元へ戻って行った。 暫く宗方はその場に立ち尽くしていた。 「宗方ー?」 天馬に呼ばれハッとしたように顔を上げ、先に歩く天馬を追った。 自販機のあるスペースに行くと、天馬はコーヒーを二本買い、一本を宗方に手渡した。 「どういうつもりですか……?」 宗方は渡された缶コーヒーに目を落としている。 「怒ってんの?こんなとこ連れてきやがって、って?」 そう言って宗方の顔を覗き込んだ。 「……」 (怒ってるのね……) なんとなくその宗方の姿が可愛く思えてしまった。 「この前、おまえがバスケしてる姿がかっこ良くて、バスケの試合が見たいって思っただけ」 天馬は壁に背中を預け、動きの止まっている宗方を見つめた。 「あなたは意地悪な人だ……」 苦笑いを浮かべ、コーヒーを一口すすった。 十一時になり、天王寺の試合が行われるコートの二階の観客席に腰を下ろした。 試合開始のブザーが鳴った。 自然と顔の知っている間宮を目で追う。 ルールのわからない天馬は、時折宗方に今のはなんだったのか、なんであれがファールなのか質問した。その度に宗方は律儀にわかり易く説明してくれた。 「間宮と同じポジションって言ってたけど、おまえとは少し違う感じするな」 「どこが……ですか?」 「動きが速いのは一緒だけど……おまえのがガタイいいし強そう」 「そうですね……多分、リバウンドの取り合いではオレのが上だと思います。でも、あいつはその分引き出しが多いんです」 「引き出し?テクニック的な事?」 「はい、ダブルクラッチだったりフックシュートだったり……」 天馬は宗方が言っている専門用語に目を点にしている。 「オレが苦手な、細かいテクニックを多く持ってます」 「ふーん……今度やって見せて」 「だから、それが苦手だと……」 その時会場が沸いた。 間宮が相手からボールをカットし、そのままダンクシュートを決めていた。 「すげ」 天馬は思わず、声が洩れた。 チラリと宗方を見ると、悔しそうな目でありながらギラギラとした目をしていた。 初戦である為か、天王寺は後半スタメンを温存し始めた。 「もう、間宮は出ないと思います」 「そう?じゃ、帰るか」 腰を上げ、天王寺のベンチを見た。間宮がこちらに目を向けているのがわかった。

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