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第18話
いつものように、ブラックキャットにいた天馬の耳に、聞きなれないバイクのマフラー音がした。
(聞きなれないマフラー……誰だ?)
だが、どこかで聞いたことがあるような、懐かしい音。
「頭!」
その時、一が慌てた様子で入ってきた。
「なんだよ、うるせーな」
「げ、玄龍さん!」
「は?」
「玄龍さんが来てる!」
一の言葉に天馬は固まった。
店の扉を開けると、目の前に大きなハーレーが目に入る。その前に太刀川玄龍が佇んでいた。
天馬は目を細め思わず、その姿に見惚れる。
黒髪を後ろに撫で付けたオールバックの髪、黒いシャツから覗かせる腕には見事な手首までのタトゥー。目はサングラスで覆われていた。
離れた所にいても、放つオーラは現役時代を彷彿させ、条件反射なのか天馬の足が竦んだ。
その隣には嫌でも目に付く、プラチナブロンドの髪に大振りのサングラスをかけた美しい人物が優雅にタバコを燻らせいる。
「玄龍さん……!」
「よう、天馬。元気か」
サングラスを外し、こちらに歩み寄ってきた。サングラスを外した目は、相変わらずギラリとし、鋭い目をしていた。
天馬の心臓の鼓動が速くなる。
「どうしたんですか」
「ちょっと野暮用」
今年の正月に帰省して以来で、半年以上振りだろうか。
「試しに通ったら、おまえのゼファーがあったから寄ってみた」
相変わらず、渋くて男の色気がある人だと思った。
「良かったら、中で……」
「いや、すぐ出ないとならねえんだ。あいつの仕事があるからよ」
そう言って後ろのプラチナブロンドの人物に親指を向けた。
「相変わらず、綺麗ですね」
「はっ……顔だけはな」
そう言って鼻を鳴らし、苦笑を浮かべる。
「新入りか?」
少し後ろで、宗方がこちらをジッと見ていた。
「はい……宗方、挨拶しろ。四代目の頭だった太刀川玄龍さんだ」
宗方はこちらに歩み寄ると、両手を膝に置き頭を下げる。
「宗方太陽です」
「随分とデカイな。いくつあるんだ?」
「191センチあります」
「おまえ、なんか玄龍に似てるな」
いつの間にか、玄龍の隣にいたプラチナブロンドの人物が口を開いた。
その言葉に天馬はドキリとし、思わず宗方に目を向けると宗方は目を丸くし玄龍を見ていた。
「そうか?」
「雰囲気っていうか……目が似てる。玄龍ほど目付き悪くはねぇけど」
そう言って大振りのサングラスの奥からジッと宗方を見つめると、サッと背中を向け玄龍のバイクへ歩いて行く。
振り返ると、
「玄龍、もう行かないと」
「ああ、わかった。また、近いうち帰ってくるからよ、その時また、飲もうや」
そう言って玄龍は天馬の肩を叩いた。
「はい……」
玄龍に触れられた肩が熱く感じた。
「じゃあな」
ハーレーのエンジンをかけ、大きく一つ吹かすと玄龍のバイクはあっという間に見えなくなった。
「相変わらず、渋いなー」
一が玄龍たちが去って行った方に目を向けながら言った。
「そんで、連れは相変わらず別嬪だな」
天馬は苦笑を浮かべた。
あんな人に対抗しようなどと思っていたことが恥ずかしく思えてきた。
「あの人……見たことあるような気がします」
宗方がボソッと言った。
「ああ……」
店に入ると、愛読している雑誌を出しペラペラと捲る。
「この人」
ページを開くと、そこには先程いた人物。
「今、人気急上昇のモデル《虎白 》だよ」
「この町の出身だったんですね……」
「三年前まで、英信高の頭だった。あんな綺麗な顔して、メチャクチャ喧嘩強くて、玄龍さんと五分の実力だって言われてた」
「そうなんですか……」
宗方もさすがに驚いている。
「そんな風には見えないよな」
宗方は、雑誌に目を落とている。何か考えているように見えた。
「もしかして……あの人……」
宗方が口を開いたところで、
「頭ー!」
一が中に入ってきたことによって、話が中断してしまった。
「イッチーがスカルズと揉めてるから、来てくれって」
携帯を片手に一が言う。
「ああ⁈なんで?」
「さぁ」
一は外人のように肩を竦めた。
「さぁ、じゃねーよ。行くぞ、宗方」
「あ……はい」
宗方は、雑誌を閉じるとを慌てて天馬を追った。
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