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第20話
一週間、宗方は本当に天馬の前から姿を見せることがなかった。
いつも隣にいた大きな男がいなことに、違和感を感じた。
あそこまで頑なにルシファーをやめないと言っていた宗方が、こうもあっさり辞めるとも思えなかったが、天馬はこれで良かったのかもしれないと思った。
ブラックキャットに行くと、癖で大きな男の姿を探す自分に思わず苦笑する。
「今日も来ませんね、宗方」
カウンターにいた一が不意に言った。
「顔見せるな、って言ったからな」
ボックス席に座り、新聞を広げた。
スポーツ欄を広げ、バスケのインターハイ予選の結果見る。
《天王寺学園が二年連続インターハイ出場》の大きな見出しが目に入る。トーナメント表を見ると準決勝で宗方がいた魁星と対戦しており、101対76で天王寺が圧勝していた。宗方が抜けた穴が大きいのかもしれない。
ふと、十河工業の名前も目に入った。二回戦で負けていたが、バスケ部はあるようだった。
「昨日、会いましたよ。宗方に」
いつの間にか一が目の前に座っていた。
一瞬、天馬の肩が揺れる。
「そろそろ許してやったらどうです?」
一は俯いているいる天馬を覗き込むように、天馬を見た。
天馬はタバコに火を点けると、大きく一つ吸い込んだ。
そしてふーっと吐くと、
「あいつのこと、ルシファーに入れなきゃ良かったよ……」
そう言って、窓の外に目を向けた。
「あいつといればいるほど、こっちの世界に染まって欲しくない、そう思っちまう……」
「あいつは、辞めるつもりはないですよ。昨日も言ってました。頭についていく、ルシファーを辞めるつもりはないって、何度も言ってました」
「……」
言葉が出なかった。
「あいつ……墨入れてましたよ」
その言葉に顔を上げ、
「ホントかそれ……」
「頭にボコられた後、彫り師紹介してくれって言われて、オレの墨入れてくれた彫り師紹介しました」
カッとなり、次の瞬間一を殴っていた。
「ってー……」
一は床に尻もちをつき、殴られた頬を撫でている。
「何、余計なこと教えてんだよ……」
「オレが教えなくても、うちは墨入ってる人多いですからね。遅かれ早かれ誰か教えてますよ」
ガンっとテーブルを蹴り、一を置いて店を出た。
(そんなもん入れて、何がしてーんだよ……!)
初めて関係を持って以来、宗方と何度か体を重ねていた。
そんなことをすれば、余計に宗方を手放したくなくなるくせに、宗方に対する欲情を抑えることもできなかった。体を重ねる度に、宗方が確実にこの世界に染まっていくように感じた。こちら側に染まって欲しくないと思う反面、宗方をこちら側に染めているのは、この自分だった。
宗方に玄龍を重ねることがなくなったのはいつからなのか。いつの間にか玄龍への想いは薄れ、宗方自身を欲している自分がいた。それに、ずっと気付かない振りをしていた。
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