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第21話

アパートに帰ると、ゼファーが駐輪場で持ち主を待ちわびているように、ポツンと停まっているのが目に入る。あれ以来、バイクには乗っていなかった。 階段を上がると、自分の部屋の前に制服姿の大柄な男が扉に背を預け、座り込んでいた。 「宗方……」 天馬の姿に気付いた宗方が、立ち上がった。 「頭……」 宗方は捨てられた仔犬のように、泣きそうな顔をしていた。 「顔見せんなって言っただろ」 「オレは、ルシファーやめませんから」 「帰れ。話すことはねえよ」 宗方と目を合わせることなく、鍵を開け中に入ろうとした。 だが、扉を閉めようするも宗方に扉を掴まれ閉めることができない。 「はな……せ!」 「離しません」 (こんの……馬鹿力……!) 押し問答をしているうちに、とうとう宗方が中に入ってきてしまった。 天馬は大きく息を吐くと、諦めたように靴を脱いだ。 「入れば?」 玄関口に立っている宗方に声をかける。 宗方は、おずおずと靴を脱ぎ、部屋に足を踏み入れた。 「確かにオレがルシファー入れって言ったよ。でも、おまえにはバスケがあるだろ。もったいねーじゃん、そんだけ才能あるんだからよ」 「今は、バスケより頭が大切です」 真っ直ぐに向けられた視線が天馬には痛みでしかなく、目線を合わすことができなかった。 「バスケと頭をどちらか選べというなら、オレは迷わず頭を取ります」 その言葉に、言いようのない苛立ちと熱いものが込み上げてくるのを感じ、目をキツく閉じた。 目を開けると、宗方の左の前腕に不自然な黒いサポーターが目に入った。宗方の手首を掴むとそのサポーターを剥ぎ取った。そこには、10センチほどの大きさのペガサスのタトゥーが入っていた。 「何これ?」 「……」 宗方は目を伏せ、自分のタトゥーを見つめている。 「こんなもん入れて、こっち側の人間になったつもりかよ?おまえ、バカか?」 「自分なりの……覚悟です……」 天馬は荒っぽく、その手を離し、 「本当、おまえの馬鹿さ加減には呆れるわ」 そう言って、宗方を睨んだ。 相変わらず目を合わせようとしない。 天馬はソファに座りタバコに火を点ける。 「玄龍さん……」 「あ?」 宗方の口からその名が溢れ、目を向けた。 「頭の忘れられない人って、あの人ですよね?」 そう言って、ずっと伏せていた目を天馬に向けた。 「な、に……言って……その話が今……関係あんのかよ」 「オレがあの人に似てるからですか?オレが似てるから、ルシファー入れたんですか?似てるからオレと……したんですか?」 天馬は返す言葉がなかった。宗方の言う通り宗方と玄龍を重ねていたのは事実だ。 「だったら……どうなんだよ?そうだよ。オレが忘れられない人って、玄龍さんだよ。おまえの言う通り、おまえが玄龍さんと似てたから、おまえをルシファーに入れた。だから、側に置いた。やる時はおまえと玄龍さんを重ねて、玄龍さんに抱かれてるって思いながら……してたよ」 そう言った瞬間、宗方は明らかに傷ついた顔をした。 「傷ついた?もう、オレのこと嫌になっただろ?」 「オレは……」 宗方は言葉を切り、一度伏せた目を天馬に向けた。 「それでも、頭の傍にいたいです。あの人の代わりでも構いません」 天馬は目を見開き、宗方を見た。 そんな目でオレを見るな……。 チクチクと心臓を針で刺されているように、胸が痛む。 「気付いてました……。オレとあの人を重ねていたこと……」 宗方は天馬に歩みより、床に膝を付いた。 「それでもいいんです。オレをあの人の代わりにして下さい。だから……」 「しつこいんだよ!」 天馬はそう言うと、宗方の肩を蹴った。 「代わり?おまえ如きが玄龍さんの代わりになるわけねぇだろ!思い上がんな!」 そう言って、また宗方の横っ面に蹴りを入れた。 「話は終わりだ。二度と顔見せんな。今日でルシファーはクビだ。とっととスポーツマンに戻れ……」 「頭……」 見ると宗方の目から涙が零れていた。 天馬の胸がぎゅっと鷲掴みされたように苦しくなる。 「バスケを失った今の自分にとって、あなたはオレの光なんです……」 その言葉に天馬はハッとし、宗方を見た。 宗方は袖で涙を拭い、 「それでもオレは、あなたが好きです……」 そう言って、部屋を出て行った。 「なんでそれを……今、言うんだよ……」 天馬は両手で頭を抱えると、声を押し殺して泣いた。

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