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第22話

目の前で一が天馬のゼファーをいじっている。 「宗方がいなくなってから、全然エンジンかけてなかったんですか?」 「ああ……」 それをタバコを燻らせながら天馬は眺めていた。 「二ヶ月……そりゃ、バッテリーも上がりますよ」 久しぶりにバイクに乗ろうとしたが、エンジンがかからず、一を呼んだのだ。 「ねえ、頭……」 手を動かしながら一が口を開いた。 「もし……あいつがバスケしてなかったら、手元に置いておきました?」 一の問いに天馬は一瞬面食らい、しばし考えると、 「……多分、置いといたと思う」 そう言って、真っ青な空に煙を吐いた。 「頭はわざとあいつを突き放したんでしょ?あいつにもう一度バスケさせる為に」 一にはお見通しのようだった。 「おまえも、一度見てみろよ。あいつのバスケしてる姿。あれ見たら、こっち側にいさせなれないって思うぜ」 今でも目に浮かぶ、宗方が空高く跳ね、豪快にダンクをする姿。 「人って、あんなに高く飛べるもんなんだな、ってよ」 「好きだったんですね」 一の言葉にドキッとする。 「バスケしてる宗方の姿が」 ふっ……と、一つ笑みを溢し、 「ああ、好きだった」 そう言った。 「わっ」 一が唐突に声を上げた。 「オイルも真っ黒……あいつ、毎日こいつのメンテしてたんですよ。大好きな頭のバイク預かってましたからねー。大事にしてましたよ。それが二ヶ月も放置……かわいそうに」 「うるせーよ!いいから早く直せよ」 そう言って、しゃがんでいる一の尻に蹴りを入れた。 「いて!もう少し待ってて下さいよ!」 そう言って、再び手を動かし始める。 しばらくすると、一はバイクに跨りエンジンをかけた。 ブォン!と大きくマフラー音が響きその後、何度か吹かした。 「はい、ラーメンと餃子ですからね」 「わかってるよ!サンキュー!」 そう言って、天馬はゼファーに跨ると颯爽と走り去った。 宗方がルシファーから去って二ヶ月が過ぎ、あれ以来、姿を見せることはなかった。 その後、天馬の望み通り宗方は現在、十河工業のバスケ部に入部しバスケを再開したと一から聞いた。 無理矢理にでもルシファーを辞めさせた事に、天馬は後悔はなかった。 元々住む世界が違っていたのだ。 そう思ってはいたものの、いなくなって天馬の中で宗方の存在が思った以上に大きかったことに、嫌でも気付かされた。今でも時折、宗方を思い出しては自慰をするほどに。 いつからなのか、いつの間にか玄龍と宗方を重ねる事がなくなり、宗方自身に惹かれている自分がいた。 会いたいと思う。 だが、宗方をあそこまで傷つけ、無理矢理ルシファーを辞めさせたのだ。会わせる顔などない。 未練がましく携帯の待ち受けは、宗方がダンクをしている写真だった。 無性に会いたくなった時、それを見て我慢するようにしていた。 そして一から聞いたのは、宗方のタトゥーの意味。ペガサスは天を羽ばたく馬。天馬の意味だということを。 一は今でも、宗方と連絡を取り合っているという。 宗方は今でも自分を気にかけていて、必ず最初には、 『頭は元気ですか?変わりはないですか?』 そう聞くのだと一が言っていた。 天馬は極力興味のない振りをしていたが、一は気付いているのかいないのか、良く宗方の話をしてくれた。

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