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第23話

その日、ウィンターカップが始まっていると聞き、一目だけでも宗方を見ようと思った。 天馬は、バスケをする宗方が好きだった。体が疼くほどに。 バスケ部としては、無名に近い十河工業が宗方の活躍により、ベスト8まで勝ち残っているという。 次の対戦相手は間宮のいる天王寺だった。 宗方がルシファーを辞めてから一度、間宮がブラックキャットに訪ねてきた。 宗方は『ルシファー辞めた自分には、もうバスケしかない』そう言って今迄の穴を埋めるように、時折練習相手を頼まれる、そう話していた。 ウィンターカップがあると教えてくれたのは、間宮だった。 総合体育館に着くと、前に宗方と来たインターハイ予選が浮かんだ。 あの時と同じように、熱気を周囲から感じた。 「十河工業すげーな。去年は初戦敗退だったもんな」 「宗方が復活したんだろ?それに、一年に結構いいガードがいるんだよな」 「天王寺相手に、いい試合してるよな」 そんな声が聞こえ、天馬は立ち止まってその会話に聞き耳を立ててしまう。 そんな男がつい先日まで、自分の隣にいたのが今では信じられなかった。 中に入ると、歓声が耳に入る。すでに十河工業と天王寺の試合が始まっていた。二階に上がり、椅子には座らず柱に寄りかかり、柱に隠れるようにコートを眺める。 すぐ、宗方の姿が目に入ると、心臓が大きく鳴った。赤いのユニフォームの背番号11番。 少し髪が伸びているくらいで、その姿はいつも隣にいた宗方だった。 たった二ヶ月だったが、酷く懐かしい気持ちになる。 (宗方……) 宗方の顔を見た途端、胸が締め付けられる。 スコアボードを見ると、すでに後半戦に入っていた。第三クォーターの三分を過ぎたところだった。 47対55。 リードされているとは言え、天王寺相手に一桁差はいい試合をしているのではないかと、素人目にも思った。 早速、紺色のユニフォームの間宮と対峙している。宗方は腰を低くし、間宮からボールを狙っている。 (おまえは、ルシファーのライダースよりユニフォームのが似合ってるな) ふっ……と笑みが浮かぶ。 キュッキュッとシューズが小刻みになる音が体育館に響いている。 間宮が宗方を抜いた、それを宗方が追いかけ、レイアップシュートを決めようとする間宮の後ろからボールを叩きブロックした。 高く跳んだ宗方のその姿に、天馬の腰がズクリと疼いた。天馬の下半身は条件反射のように反応し、思わず天馬は苦笑を浮かべる。 ブロックされた間宮は、悔しそうに、だが楽しそうに宗方を見つめており、一方、宗方は表情を変えることなく、定位置に戻って行った。 ほぼ、十河工業は宗方頼みで、宗方が常にボールを持っていた。当然チェックも厳しく、それでも宗方は必死に食らいつき、十河工業も点を重ねる。 タイムアウトになり、選手達がベンチに座る。宗方を目で追うと、左の前腕のサポーターを撫でているのが目に入った。背中を向けている為、その表情は見えなかったが、その姿を目の当たりした天馬は、宗方に愛おしさが込み上げ、涙が出そうになったのを必死に堪えた。 タイムアウトが終わり、コートに選手が散って行く。 正直、天馬は見ていられなかった。自分までも緊張している。 とうとう、ワンゴール差にまで十河工業が追いついてきた。残り一分。やはりここは宗方がボールを持っている。 目の前には間宮。宗方がゆっくりボールをつき、次の瞬間、間宮を抜いた。そのままリングまで走る。リング下、宗方より大きい天王寺の選手が立ち塞がる。左サイドに宗方はキュッと止まり、ジャンプシュートを放とうと構えた。 必然的に宗方の顔が真正面に見えた。 その時、宗方の視線がこちらに向いた気がした。 終始淡々と表情を変えることのなかった宗方の目が、大きく見開いたように見えた。 天馬はハッとし慌てて背中を向け走り出していた。 その直後、周りから大歓声が聞こえ、試合終了のブザーが鳴った。 天馬は走ってバイクまで戻り、逃げるように試合会場を跡にした。 気のせいだったのかもしれない。だが、目が合ったように天馬は思えてしまった。 そして年明けすぐ、天馬は六代目ルシファーの引退を表明した。

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