24 / 28

第24話

村上一は、ファミレスの奥の席からでも、その大男が入ってきたのが見えた。 「宗方!」 一は手を上げ、自分の居場所を示す。 宗方はこちらに気付き、ゆっくりと歩いてくる。 宗方が昨日、相談したい事があるから時間取れないか?と連絡をしてきた。 時たま連絡は取り合っていたものの、会うのは宗方がルシファーを辞めて以来だった。 ジャージ姿の宗方は、大きなボストンバックを抱えていた。 練習帰りなのかもしれない。 「久しぶりー」 「久しぶり」 目の前に腰を下ろす。 「練習してきたの?高校は引退したんだろ?」 「ああ、間宮たちと練習してきた」 メニューを差し出してやると、宗方は受け取るだけでメニューを開こうとはしなかった。 「頭は……元気なのか?」 「今の頭はオレだけどな」 そう言って揶揄うように一は言った。 天馬は、約一年前にルシファーを引退し、その跡目に村上一が七代目頭を継いでいた。 宗方の中での頭は未だに、天馬ただ一人なのだろう。 「そうだったな……」 「先月東京に用事あって少し会ったけど、まぁ元気なんじゃん?」 「そうか……」 そう言って寂しそうに目を伏せた。 その天馬は、引退と同時に上京し、この町から去っていた。 「連絡してみりゃいいじゃん。あの人番号変えてないし」 宗方は一の言葉に首を振った。 そこで宗方はメニューを開き、店員を呼ぶと注文した。 「オレ、大学決まったんだ」 「へぇ!おまえが大学生!勉強できんのかよ!」 「まさか……!できるわけないだろ」 「そうだよな、おまえバカだもんな」 宗方は一の言葉にムッとした顔をしたが、否定はしなかった。 「バスケの推薦で」 「良かったじゃん。どこの大学?」 「S大学」 「S大学って……都内?」 コクリと宗方は頷いた。 「じゃあ、天馬さんに会いに行ってみたらいいじゃん」 一はそこで、宗方が自分に相談したいと言ってきた理由がわかった気がした。 「相談ってそれ?」 宗方はまた頷いた。 「会いに行ってもいいと思うか?」 「……」 一はジッと宗方を見つめた。 「おまえもさ、気付いてるよな?あの人がおまえをルシファー辞めさせた理由」 あの時天馬は、無理矢理突き放すように宗方を切った。 だが、それには天馬なりに宗方を思っての理由があった。 「バスケ……させる為だろ?」 「ああ……前も言ったけど、あの人はおまえがバスケしてる姿が好きだったんだよ。おまえは天馬さんの期待を裏切ることなくバスケに復帰して、お互いにルシファーっていう肩書きはないんだ。会ってもいいと思うけどな」 「そうかな……」 一の言葉に期待に満ちた顔をした。 「ただ、あんな形でおまえを切ったから、天馬さんは罪悪感、感じてるかもしれねーけど……」 そう言って、一はタバコに火を点けると一つ煙を吐き出した。 「まあ、でも顔見せれば嬉しいんじゃね?おまえがいなくなって、あの人あからさまに気落ちしてたし、あの後あっさり引退したしな」 その姿を思い出したのか一は、ふっ……と笑った。 「じゃあ、一ついいこと教えてやるよ」 宗方の表情が途端、緊張している。 「この前会った時こっそり見たんだけど……」 一は勿体ぶるように言葉を溜めると、 「あの人の携帯の待ち受け、おまえがダンクしてる写真だった」 その言葉に宗方は、目を見開いた。

ともだちにシェアしよう!