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第3話
村の西側は気候や地形の影響からか魔素が溜まりやすい。
ただでさえ今の時期魔素が活発化してるので今回はまず西側以外の封印整備をしてから全員で一気に叩く事になっていたのだが、縦断移動中の部隊から新人が一人消えてしまったというのが事の次第らしい。
男は慎重に、術式地図にマーカーを刻んで行きながら捜索を始めた。
ベテラン勢にとって村の周囲の森は庭みたいなものだとは言えこの時期油断はできない。
一人で進む森はいつもと違う場所のようで、濃厚な魔素もあり息苦しさに油汗がにじむ。
どれだけ歩いたことだろう。
「俺の勘なら多分このへんなんだがな……」
新人が間違えやすそうな地形、歩きやすい獣道、そして勘を振り絞って進んでいく……その時。
「はなせ、はなせよぉっ!」
奥の方から声がした。
魔物を警戒して男は息をひそめる。
大木を背ににじり寄ると、そこには数多の触手に絡め取られもがく新人隊員の姿があった。
触手は複合型らしく何種類もの腕がからみあいもつれあい、ぬるぬる蠢いているその様はまるで大蛇の集団交尾だ。見上げるほど巨大な塊は捕まえたばかりらしい獲物に歓喜して段々と動きが激しくなってきている。
森は薄暗く顔は明確には見えないが、獲物はその背格好から新人隊員に間違いないだろう。
しかし……
「なんでこんなとこに最低Bクラス以上の巨大触手がいんだよ……」
通常巨大触手型の魔物はもっと魔素の安定した深部に居るものだ。異常気象にも程がある。だが今はそんな事を言っている場合ではない。新人はまだ装備類が腐食していないが、あのままでは装備や服を溶かされた上、麻酔やら媚薬やらを注入され美味しく頂かれてしまう。よくて餌。悪ければ触手の母体として飼い殺しになるだろう。
「せめて巣に連れていかれる前になんとかしねえと……うぉっ!!」
ぼこぉ
ずるずるずる
突然、足元からイカの脚のような触手が男の足首に巻き付いた。
「しまった!別個体……?!じゃねえなこりゃ!」
慌ててナイフで切り裂くが、肉厚すぎて切断できない。ぶりゅんと弾かれ浅い傷を作るのみだ。
色から見てもおそらく新人を襲っている触手が地下を通り触手を伸ばしてきた物だろう。感づかれていたことに内心で舌打ちをする。
「このやろっ!」
ならばとポケットから魔物用撹乱剤の袋を取り出してぶちまける。不定形魔物を一時混乱させひるませる薬で人体には無害だ。手持ちは少ないが惜しんでいる暇はない。
「ぎぎぃ!」
木をこすり合わせるような耳障りな悲鳴をあげる触手からなんとか脚を引き抜いて新人のもとに走る、こうなったら時間勝負だ。
大股で駆け寄り触手に取り込まれる寸前の新人に巻き付く触手に残り全ての撹乱剤を投げつける。
「ぎゃぎゃぎゃっ!」
「せ、せんぱい……?!」
「意識はあるな!」
ブーツで触手を踏みつけて新人を引っ張り上げる。見た所無事だがメンタルをやられ新人は半べそだ。
「あ、あ、俺、俺……おれぇっ……」
「しっかりしやがれ!」
ぱあん
半泣きの新人の頬を張る。
「あ……!」
淀んでいた新人の目に光が戻った。それを見て男がニカっと笑いかける。
「走れるな?」
「?!は、はいっ」
だが次の瞬間、地をのたうっていた触手郡の中からひときわ太く長い触手が飛び出し男の腰に巻き付いた。予想外に復活が早い。
「なに?!並の魔物なら失神する量だぞ!?くそっ!」
強化ナイフを突き立てるが粘液に滑って致命傷にはならない。
「先輩!」
新人の脚に伸びかけた残りの触手を剛力に任せ振り払ってやって男は叫ぶ。撹乱剤はもうない。
「いいから走れ!!」
「でも!」
「ばかやろう!助けを呼びに行くんだよチョロスケ!!お前の俊足に俺の命がかかってんだ!死ぬ気で走れぇ!!振り向くなぁ!」
「は、はい!!」
鬼の形相で怒鳴りつけられ、新人はようやく決死の表情で走り出した。
触手たちも新たに手にした獲物に群がるのが精一杯で新人の方までは手を伸ばそうとしない。
その隙に新人の背中はあっという間に森の向こうへ消えていった。
自分の腰に回った野太い触手からさらに分化した細い触手が服の上を這い回っていくのを感じながら、男はため息をつく。とりあえずはこれでいい。
無事に逃げおおせた新人はおそらく仲間が保護する。大丈夫だろう。
だが新人を逃がす為に撹乱剤は使い切り、戦斧もどさくさに紛れ触手の海の向こうだ。
どんどん地下から湧いてくる触手達を憎々しげに見下ろして男がもがく。
「くっ……何だコイツ……地下で繁殖してんのか?!」
今まで散逸していた物が撹乱剤と攻撃の刺激で呼び戻されたらしく、あちらこちらから触手の分体が集まってくる。
触手族はスタミナの強い魔物だが、男が自慢の膂力で片っ端からブッちぎっていれば段々小さくなっていくのが常……のはずなのだが、この触手は粘液も多く強靭すぎて強化ナイフの歯も立たない。辛うじて細い触手を引きちぎっても復元力のほうが勝る有様だ。
(畜生、装備さえしっかりしてりゃこのくらい訳ねえんだが……!)
今日の装備はこの魔物に対して相性が悪すぎた上に、触手の様子も異様だ。変異体かもしれない。だがそうも言っていられない。男は覚悟を決める。
「なら、こいつで、どうだぁっ!!」
ずがあっ
振りかぶってできる限り中心に近い根本へ強化ナイフを打ち付ける。根本には神経や頭脳などが集中していることが多い。いくら触手でも全力でここを叩かれれば……
「ギッ!!」
「やったか?!」
一瞬勢いが衰えてみえた触手に気が緩んだ。だが、次の瞬間には怒りからさらに勢いづいた触手達が男めがけて伸びてくる。
「ぐぁっ!」
いくら触手でもおかしい、そう思ったときには手遅れだった。
「!」
ぞぶり
怒りに勢いづいた触手の波に、男の体が一気に飲み込まれる。
(しまった!)
焦って藻掻くが指先残さず男は触手の中へ取り込まれてしまった。不思議と息苦しくないのは獲物の鮮度を保つために魔力と粘液で獲物に呼吸させるメカニズムがあるからだ。
粘性の高い液体が自分に向かって分泌されるのがわかった。
(気色わりい……あっ!?)
太い触手で体を拘束したあと、次に伸ばされるのは人間の指程の触手だ。
先端には味覚があり魔力の多い場所、つまり性感帯を探り出す。指触手は服の隙間に入り込み男の肌の味を確かめた。汗ばむ体は魔力と生命力に満ちておりはち切れんばかり。
その美味の予感に触手が波打つ。
服の下に我先にと潜り込んでくる指触手達は、鍛えられた胸をなぞり、尻の谷間を探る。
その奥の敏感なエリアを知ってわざと焦らすように遠回りしては淫靡に刺激する。
(ああっ……やめろ……っ!)
男が渾身の力で振り払おうとするが、邪魔な腕はスルリと上で纏められ、脚はがっちりと開かれた位置で固定されていた。いつもなら抵抗できるはずなのに、粘液の潤滑性と含まれる微量な弛緩剤で身動きが取れなくなってきていた。
胸に、下半身に、口に、細い触手達がどんどん集結してくる。
先端に猫の舌のようなざらついた突起がついた腕が、男の露出した部分をねっとり舐めだす。
ぞるっ
(ひっ、……あっ!)
服の下にあっという間に入り込まれて振り払えない。
たっぷりした胸、そしてその先端の果実に猫舌触手の舌先がたどり着いてしまった。
くにくにっ
(あんっ!)
朝呪術師に散々意地悪をされた乳首が不覚にもぷりっと勃ってしまう。奥深いところで燻る種火が風に煽られるように火力を増していく。
口元に集まる触手が嫌で首を振るが、拒む男の首を締めて無理やり開けさせる。
口の中に入ってくる指触手が上顎をなぞった。
(……ぐぁっ!)
そのネットリした不快な感触に男は眉をしかめ、舌を口腔を弄ぶ指触手達は魔力を含む甘美な体液に歓びうねる。
男が乳首が弱いことを悟ったのか、猫舌触手は最初に虐めた乳首から撤退して胸肉全体をもみあげ始める。一度敏感になった先端を放って置かれ、男の腰が無意識に揺れてしまう。
(こ、このやろ……ああっ、やめろ……っ!)
触手は次第に激しく男の体を貪っていく。男が淫に溺れれば溺れるほど男の魔力は触手好みの味に染まり活性化するのだ。
触手は男からにじみ出る魔力を舐めながら考える。こいつをこのまま食いつぶすのはもったいない。
巣で飼いながら可愛がり、長く楽しませてもらおう。躾けてから『ご主人様』に献上してもいい。
「……おまえは 特別に 可愛がって やる 味わって 躾けて ご主人さまに 献上する」
(触手がしゃべった?!……ああっ!やめろ!俺に触るなぁ……んんっ!)
「巣に 連れて 行く」
触手は喜びを隠せぬ口調で『宣言』し、男の意識はそこで途絶えた。
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