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第4話

「本当にここに居たんです!」 「しかしなあ…」 無事逃げ出せた新人が触手と男のいた場所へ応援部隊を引き連れ戻ってきたのは数時間後だった。 術式地図にマーキングされていたために場所の特定はできたが、しかし今そこには誰もおらず気配もない。 新人は焦って先輩たちに事実を伝えるが、警備員達は「深部系魔物の巨大触手が本当にこんなところに居たのか?」と半ば懐疑的だ。 「それにアイツがあっさり捕まったりするってのがなあ」 「ですから!それは捕まってた俺を助ける為に……!」 一緒に捜索へついてきた呪術師がなだめた。 「おまちなせえ。ちょっとここらは妙な具合だ」 「妙?」 「魔素の流れが静かすぎる。他の地域見てえな流れがねえんですよ」 そう言って足元を確認する。 よくよく見ると落ち葉が偏っている場所を見つけ、葉を数枚剥がして土を指でなぞる。 「……土を下から掘って、その後を隠蔽した痕跡がある」 新人が驚いた顔をした。 「ええ?相手は触手族ですよ?そんな知恵が働くわけが」 呪術師はざっとあたりを見渡した。すん、と空気中の魔素を嗅ぐと、ガサガサと茂みの中へ進んでいく。影になっていて見え辛いが、木の幹に擦れた痕跡をいくつか見つけた。茂みの中だと油断したのか、てらてら光るピンク色の粘液までついている。紛れもなく触手系魔物の痕跡だ。 それは3方向へ向かっていた。一つは森の奥、もう一つは村。そして、もう一つは湿った泥がへばりついて捻れた樹木の根本へ向かってる。 (雨が降ったのは少なくとも一週間前だったな……) 考え込む呪術師に警備員たちが駆け寄ってくる。痕跡を見つけて一気に緊迫感が走った。 「まじかよこの跡、高さだけでもかなりのものだぜ」 「本当にいやがったのか」 「この跡は……!ミケはこっちか?!」 「はやく助けに行くぞ」 一斉に森の奥へ向かおうとしていた警備員達をしかし呪術師が手で制した。 「なんだよ呪術師先生!はやく行かねえと……!」 「いいからまず話を聞きなせえ」                   ◇ 森の奥、木々に隠された洞穴の中に男と触手はいた。 暗闇に、ヒカリゴケの淡い明かりで男の肢体が艶かしく浮き上がっている。 「ああっ!ひぃっ……!!」 嬌声が岩肌に響いて一層扇情的だ。触手は満足そうに腕を蠢かせる。 自分の巣に連れてきさえすればこちらのものだ。こうしてパッケージを開くように男の巨体を体外に半ば開放してゆっくり味わえる。なあに獲物は粘液の弛緩剤と媚薬でトロトロだ、抵抗はできない。 消化粘液で衣服はすっかり取り払われ、皮手袋とブーツだけの姿の男は、ある意味全裸よりよほどそそられる姿だ。触手一本一本が歓びに満ち蠕動している。 指触手がたっぷりした胸を揉み肌を舐め上げる度に魔力が活性化し、淫に染まった魔力の滋味が舌先を痺れさせてくる。こんな上物は初めてだ。 魔力の質はもちろん量も素晴らしい。さらには奥底にもっと豊富な魔力の気配を感じて歓喜に震える。 今は「なにか」に邪魔されて手を出せないが、この男を徹底的に屈服させればきっと自ら開き差し出してくるだろう。 ご主人様もお喜びになるに違いない。 魔物のヒエラルキーの隅で震えていた小さい自分に知性と力を与えてくれた恩人、ご主人様。 まずは自分が味見、いや「躾」をしてから従順な餌として男を差し出そう。 ご主人様はきっとさらなる高みへ昇り、自分もそのお側にお仕えするのだ……。 触手は自身の奥から吸盤のついた変形触手を男の肌に伸ばした。 緑色でヌラヌラと濡れており、小さい数多の吸盤内側には柔らかく弾力のある細かい歯がついている。 男の反らされた胸をの谷間をつるりとなぞる。 「は……っ」 予感に男が息を飲む。 「期待して いるのか 淫乱 め」 「だ、れが……あああっ」 粘液にふやけて赤くなった乳頭に吸盤が食いついた。 陰圧に締め上げられながら敏感な場所に歯が食い込んでいく。甘い痛みに男の目に涙が浮かぶ。 「やぁっ!やめろぉ……っ」 乳頭に食いついた吸盤をクイクイ刺激しながら男の男根にまわした子供の小指ほどの触手達をざわめかせる。それはセミの羽音のような音を立て細かくバイブレーションしながら茎を舐めあげた。 びぃぃぃん じゅっくじゅっく 強い射精感に男の腰が揺れるが後少しというところで止められる。 「くっ、うう……!」 その時、男の胎の奥がずくんと熱を持ち疼きだした。 (ぐっ……なんだ……この感じ……確か前にも) 荒くなってきた呼吸に触手が機嫌良さそうに尋ねる。 「そろそろ 効いて きた だろう 」 「な……に?」 「とぼける な 私の 体液に 触れて 平静で いられる ニンゲンは いない 今すぐ 犯し 喰らいつくして 欲しくて 堪らぬ はずだ」 「は、ははっ、生憎媚薬は初めてじゃねえんだ……そんな簡単に落ちるか……あぁあっ!」 言い終わらないうちに牛の舌のような触手が男の後孔をじゅっぷりと舐め上げた。 存分に媚薬粘液を含ませた愛撫に肉襞が蹂躙されみるみる紅く熟れだす。 「あうっ!!」 「なんだ 足りない なら そう言うが 良い いくらでも くれて やる」 じゅっぷりと粘液を滴らせた細かい触手群が首筋を、鎖骨を、腰骨を這い回り媚薬成分を男の生肌にすり込んでいく。 同時に指触手が尻たぶをむっちり揉みしだき、牛舌触手はねっちり後孔を舐めしゃぶる、男の蜜壺は皮肉にも朝の名残もあり男の意思に反して従順に柔らかく熟していってしまう。 「あぁっ、んんっ、ひっ……!」 ぞくぞくと這い上がってくる快楽の誘惑に男の理性がガクガクと揺さぶられる。 「随分 感度が 良い ようだな いい子に していれば 痛くは ないぞ 我に 従え かわいがって やろう」 「う、うるせぇっ……ああっ!気色わるいんだよぉっ……!ああんっ!」 だがその声は隠しようもなく淫靡で、ただ触手を悦ばせるだけだ。満足そうに触手は嘲笑った。 「ククク 可愛く 鳴き声を あげ おる」 「ひぎっ……あぁああっ!!」 じゅっぷじゅっぷと太茎を刷毛のように細い触手群にしゃぶられて、イキそうになる度止められる。そして行き先のない熱に身を反らした瞬間後孔を牛舌触手に嬲られてまた高ぶらされる。繰り返される拷問に男の脳髄は煮えたぎり理性と怒りで失神寸前だ。 「よく 発達した 胸肉 だ 」 太い触手で重さを再度確かめるように下から持ち上げ、そこに先端が大きな椀型に変形した触手が二本現れる。 「な……っ!?」 男にみせつけるようにタップリ粘液をしたたらせ、ゆっくり接近してみせると左右同時にジュプリと胸の先端へ襲いかかった。 「ああっ……それはぁっ!!」 にゅぐんと一気に飲み込むとむぐむぐと咀嚼する。内側には繊毛のようなコリコリの突起が細かく並んでおりさながら肉のヤスリだ。小さい突起はぷりぷりと乳首に引っ掛かりその度に腰が跳ねてしまうし、泡だった粘液に含まれる媚薬が敏感な部分に刷り込まれて染み込んでくるのが解る。じゅぷじゅぷ粘性の音が耳を犯すごとに恐ろしいほど甘い刺激が男に襲いかかる。胸の先端を中心に痺れが走り、股間のものが今にも弾けそうだ。 だが男根を覆い尽くしている毛程の太さの触手集団が尿道にまで入り込んでいて射精することもままならない。 必死に抵抗しようとするのだが、粘液の媚薬と快楽に脳髄をとかされて意識さえままならない。 (だめだ……こんな……だめなのに……) 胸を肉ヤスリでゾリゾリじゅぷじゅぷと愛撫されて、限界まで熟した両の先端から白いミルクがにじみ出てきた。 強すぎる快楽に乳腺がまた再び活性化してしまったのだろう。 「ほう お前 乳が 出るのか 雄の くせ に」 ぎゅむっと掴み上げられ快楽と共に男の赤い乳首から白いミルクが迸る。 「はぐうっ!」 「は は 搾れば 搾るだけ 出て きおる 美味い 美味い」 触手たちが胸に集りだしてミルクをすすりながら胸全体をぐにぐにと搾りとっていく。異形に乳を貪られるが、高まる快楽にミルクも嬌声も止められない。 「あぁっ、ひ、ううっ、ああんっ!」 「乳にも 魔力が ふくまれている のか はは  力が みなぎって くる 」 ずぞぞぞ おぞましい音を立てながらあちらこちらから様々な形状の触手がどんどん生えてくる。つま先から髪にまで絡みつき男の悦楽を煽り淫に染まった魔力をすする触手達。 ひとつの大きなイキモノの口の中でもてあそばれるかのように男の巨体が揺さぶられねぶられる。 「淫に 染めし 魔力 なんという 豊かな 味わい …… だが」 触手全体がより活性化し、満足そうにたっぷりと粘液を分泌する。媚薬を含む粘液でずぶ濡れの男が悦楽にふらつく頭を堪らず振りかぶり幾度も力を振り絞るが、淫靡な触手達を振り払うことはやはりできない。 「ああっ、もう……っ!はなせぇ……っあんっ!ああっ!」 「こっちの味も そろそろ 確かめ て やろう」 たっぷりと解していた後孔。いまや待ちわびるようにはくはくと震えるそこに、指触手が数十本吸い寄せられるように集まる。 「……っ?!」 「我が杭 で 貫くのは まだ 勘弁しておいて やる お前の 胎は ご主人様に 捧げて やろう だが」 ぞぷっ 一気に肉指達が男の媚肉を犯す。 「ああぁっ!!」 「我が 尊き 指にて 胎内から より 従順に 作り変えて やる」 入り込んだ肉指触手達はそれ自体が別々の生命体のように男の熱い胎のなかをすりあげる。 肉襞を蹂躙して蠢き、媚薬粘液をこすりつけ、奥へ進んでいく。 じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷ ぐちゅっ くちゅちゅちゅ 「ひっ……あぁっ……やめろぉっ……ああっ!奥……っいやだぁっ!」 焦らしに焦らされた熱を貫かれて圧倒的な衝撃が男の神経を灼いていく。 触手はみるみる結腸付近まで入り込みその濃厚な魔力を体全体で味わった。 「濃厚 にして 豊富な 魔力 すばらしい 味わい だ  お前も そろそろ 理解 しろ 助けなど 来ぬ お前は 終わり だ 楽に なれ」 「う……うるせえっ!……ああぁっ、魔物なんかにぃ、んぐっ!はあぁ、まけるかよぉ……あああっ」  「クク 助けが 来ると 本気で 思って いるのか 愚かな  今頃 奴らは 我が 分体に襲われ 蹂躙 されている  無事で あるなら 助けに 来るなら とうに 来ておるわ お前は 見捨てられ たのだ 」 「なわけ、ねえ!彼奴等や先生が負けるか、よ!俺なんかより、村を守れりゃ、俺達の……勝ち、だ!……ああっ」 ネチネチ音を立てて這い回っていた平たい触手にギュムッと男根を絞られ悲鳴を漏らしてしまう。この触手の言う通り分体とやらが村を襲っていたら、その時多くの警備員たちが自分を探しに来ていたとしたら厄介だ。 (頼むから俺のことなんか放っておいてくれよ……皆……先生……それより村を……) 強すぎる快楽に薄れる意識のなか、男が祈るように目を閉じると、そこに聞き慣れた声が響いた。 「旦那、勝手に諦められちゃ困りやすぜ」 「誰 だ !」 ざわわ、銀色に光り素早い触手が一瞬で固くなり声の方へ飛ぶ。しかし、声の主は軽く跳ねて躱してみせた。 「せ、んせ……?まさか……」 (まさか都合のいい幻が……?) 「違う違う。ちゃんと本物ですぜ」 まるで心を読むかのように呪術師は笑った。手元の杖で飛びかかってくる細かい触手達を杖でいなしては光る杖先で切断する。 「貴様 近寄るな  どうして ここが わかった !」 その只ならぬ気配に触手も大きく動けないでいるようだった。ジリジリと牽制しつつ、呪術師が一歩づつ肉薄してくる。 その表情は余裕たっぷり。まるで子供に言って聞かせるように微笑んだ。 「自分のモノの場所がわからねえほどボンクラじぇねえよ。と言いたいところだが、なんのことはねえ。無様に残った痕跡と、鼻につく品のねえ魔素を辿ってきただけのこと。……お前さんが本体だね?文字通り分体して二手に分かれ、村と旦那と同時に襲おうとするたあ大したもんだ」 ぱちぱちとバカにしたように拍手をしながら、また一歩近づく。 「寄る な !」 触手達がビクリと警戒して震えた。 こんな優男敵ではない、そう思っているのに本能からの怯えが触手全体に走ってしまう。こいつは危険だ。 男が声を精一杯声を張る。 「う……ああっせんせ……逃げ……ろ!」 しかし呪術師は動じない。 「旦那。もうちっと待ってくだせえ。大丈夫。村は無事ですぜ。警備員達には俺特製の攻性楔石と駆除剤を渡してある。今頃分体は一網打尽でさ」 「ちが……う。コイツは……ただの触手系魔物じゃ、ねえ!」 男が死に物狂いで打ち据えても歯が立たなかったのだ。いくら呪術師でも危険すぎる。男が必死に怒鳴った。触手はそれを聞くと愉快そうに触手全体を震わせた。 「本体に 一人で 立ち向かう 愚か な 生き物よ 不死身の 我に 平伏する が 良い!!」 細い触手で男の胸を鷲掴む。 火照る肌に冷たい触手が食い込み、ゾクリと悪寒が走った。 「ああっ……やめっ……!」 触手に悶える男に呪術師の笑顔が消える。 「今 膝を つくなら お前も 飼って やっても 良いぞ  こいつ ほど では 無いが お前も 悪くない 餌に なりそうだ !」 「お前さんは確かに賢いかもしれねえが、経験がちいっとばかし足りなかったようだね」 呪術師はツルリとしたピンクの小石のような何かを掲げた。 「これなーんだ」 「! それは 我の 核 !?」 「本体と別の場所に核を隠しておけばたしかに肉体は不死身かもしれねえが、あんな稚拙な隠し方じゃ意味ねえよ。雑木の根元に雑に埋めるとか、冬眠前のリスの方がまだ気の利いた隠し方するってもんだ」 そう言って呪術師は爪を立て核の表面に傷をつける。 「ギァ ア ア!!」 途端に触手がビクリと跳ね、生木を折るような悲鳴をあげた。よほど苦しいのだろう、一部の触手の先端は焼いたイカのごとく丸まり、周囲には獣の焦げた匂いすら漂った。 だが呪術師は容赦しない。さらに指を鎮めて爪を埋める。見た目より柔らかな核は無残にひしゃげ始めている。 「や、やめロ…っ ! グ ギァ アアっ !」 「触手の分際でよりによって俺の旦那に手を出すとは、万死を超える罪深さ。本当ならもっと念入りに代償を払わせてやりてえが、まあいい、地獄の官吏に今日は特別に譲ってやるとしやしょう」 待て、そう言おうとした触手は、呪術師が手の中で触手の核を砕いた瞬間にザラリと崩れ落ちた。 「グ ァ ア ア … ア … !!」 「うわっ!」 「おっと、旦那はこっち」 落ちてきた男をさっと支えて、触手の残骸の上へ落ちるのを防ぐ。ずっしりした重みが呪術師の腕にかかるが危うげなく抱きとめた。 そしてその足元で触手はあっけなく砂と化す。 忌々しくそれを靴裏で踏みにじりながら呪術師が男に微笑みかける。 「怪我はねえですか?」 呪術師は着ていたコートで全裸の男の巨体をくるんでやった。 「ああっ、……せ、せんせ……?」 ケフっと咳き込む男の背中をさすってやりながら呪術師が安堵のため息を付く。 「さ、旦那。ウチへ帰りますぜ」

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