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狼というには可愛すぎるわけで①

「ろくなもんなかったから、こんなもんしか作れなかったけど。」 そう言って差し出されたのは、見ただけで美味しいのがわかるチャーハン。 家にはほとんどなにもなかったはずなのにこんな美味しそうなもの作れるなんて、少年を見くびっていた。 「これ食べていいの?」 「なんの為につくったんだよ。いらねえんなら捨てるぞ。」 「いります。いただきます。…これ、美味しいよ。うん、世界で一番美味しい。」 「うるせえよ。」 空腹も手伝って、いや、空腹ではなかったとしてもお世辞ではなく世界一美味しいチャーハンをあっという間に平らげてごちそうさまでしたといえば、少年は餓鬼かよ、と笑った。 その笑顔にきゅんときたのか、胃袋を掴まされたのか、食器を片付けようとする少年の腕を掴んだ。 「毎日、君のご飯が食べたいな。」 「………」 あきれたような少年の顔。でも、仄かに耳が赤いような気がする。 「……その前に調理道具と食料用意しねえと行けねえだろうが。」 そんな現実的なまともな反応に我に返り、あはは、そうだね、と笑って誤魔化した。 「それに、俺は君じゃなくて、前田蓮っつう名前があるんだよ。」 「あはは、いまの今まで自己紹介してなかったね。うん、蓮ね。俺は武川真也」 「調子のんな。」 そんな憎まれ口をたたきながらも蓮が満更でもないように笑って見えたのは、俺の希望的観測ということで。 おわり

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