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狼というには可愛すぎるわけで②
あの夜から、お前があんまりにも情けないからだなんだと文句を言いつつも、学校が終わればうちに来てご飯を作ってくれて泊まって、学校へと向かう前には弁当と朝ごはんを用意してくれる蓮。
そんな良妻な蓮の虜になってしまうのは、悲しいかな男の性で、蓮の預かり知らぬところで胃袋を掴まされた俺は、ならば俺もこんないい奥さんを手放すわけにはいかない、とサプライズで学校へ蓮を迎えに行き、そのまま友達に教えてもらった、ちょっとお高めのお洒落なレストランで食事でもしようと思ったわけだ。
正直、そんなレストランの食事よりも蓮のご飯の方が楽しみはあるんだけど、いつもすこしバカにされている感じだから、ここで見直してもらって年上の尊厳を保たねばならない。
大学の授業が終わるやいなや、もうスピードでフォーマルっぽい私服に着替えて一目散に蓮の学校へと向かう。
そもそもがイケメンな蓮ならば適当な服装をしたって小洒落たレストランにいても見劣りしないかもしれないけど、いもくさい平凡が適当な服装でいけば、恥をかくかもしれないし。
なんといっても、蓮と食事に行くわけだから少しでもお洒落しておかないと。
そんな思いで学校まで向かうものの、高校の下校時間ギリギリで着くこととなり、汗だくの俺。
いや、情けない。
……
(蓮side)
学校が終わり、真也家へと向かう。
放課後はめっきりそんな生活が続いているものだから、ここ最近溜まり場へ向かうのも喧嘩をすることもなくなった。
毎日のように、いつもつるんでいる奴らが、たまには溜まり場へ来いよと誘ってくるが、毎回断っているのがここ最近の日常だ。
わざわざ誘ってくれるやつらには悪いとは思わないわけでもないけど、俺があそこへ行かなくとも誰も死にゃしないが、真也に飯を食わせなきゃ、奴は間違いなく死ぬ。
比喩じゃなくてマジだ。
料理できないうえに、女ができそうにない平凡顔。
のくせに能天気なのが腹立つが、親がろくに家に居なかったせいで必要に迫られて作れるようになっただけの料理を美味しい美味しいと食べてくれるのが少しだけ嬉しく、毎日のように真也の家へと足を運ぶ。
今日も、いつもの如く連れの話を半分聞き流しながら校門をでると、思いもかけず聞き慣れた声がした。
「れーん。」
呑気にも、アホみたいな呼び方をしてやってきたのは、真也だった。
「あれ、唯高の武川さんすか!?」
声をかけるよりも早く、声をあげたのは隣にいた小河で、心なしかテンションが高いような気もする。
「うん。今は大学だけど。えーっと君はたしか、都中学の子だっけ?」
「覚えててくれたんすか!感激です!!前田、武川さんと知り合いなん?」
やたらはしゃいでいる小河に、でれでれとしている真也に何故かイライラする。
どうしてイライラするのかはわからないが、何にもできないダメ男代表の真也が、何故かはわからないが小河に尊敬されていて、真也が柄にもなく、調子にのっているからだろう。
今日に限って、いつもより格好いい服装の真也。
普段の真也の服装はもっと適当な服装だ。
朝時間に追われて、昨日俺が畳んでいた洗濯物の上から適当に服をつまんで着替えているからコーディネートもあったもんじゃない。
それなのに、上から下まで統一された、雑誌で紹介されそうなコーディネートをしているなんて、前から知り合いらしい小河にサプライズかなんかで会いにきたつもりか。
そう思うと一層、楽しげに話している二人にイライラして、舌打ちをして、二人のもとから離れるべく踵をかえした。
「あ、れん。どこいくの?」
二人の話の途中だというのに、突然話をきって話しかけてくる真也に、無言を貫くと、替わりに小河が返す。
「俺ら今から溜まり場行くんすよ。前田最近なかなか来ないからたまには顔出せって、武川さんからも言ってやってくださいよ。」
誰のせいで溜まり場行けなくなっているんと思っているんだと、半ば八つ当たり気味に思う。
まあ、言えるはずないんだけど。
「今日は駄目だよ。蓮は俺とご飯食べに行くんだから。」
「…は?」
「というわけで、ごめんね。小河くん。俺に免じて許してやってね。」
「は…はい!!」
「…っ。おい、真也。聞いてない。」
「んー。言ってないからね。実は6時から予約取ってるんだ。」
「…場所どこだよ。あと15分しかないぞ。」
「やべっ、ギリギリだ。蓮、走れ!!」
「…はああああ?」
ここ辺りで有名な落ち着いた高めのレストランに汗だくで入る、やっぱり格好つかない真也にどこか安心して真也を眺め見ると、俺、情けないなあ、と眉を下げて笑う真也。
格好つけても、結局ここに落ち着く俺たちに、俺も一緒になって笑った。
おわり
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