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第4話

「東!」 渋谷が俺を見つけて大声を上げた。 そのせいで、上條も俺に気が付き、こちらに目をやる。 「ねー。タオル持ってる?」 髪から服、全身びしょ濡れの渋谷が困りながら聞いてきた。 「持ってない。 上條。お前は持ってる?」 ほんの親切のつもりだった。これをキッカケに…… 上條は突然振られて驚いた顔をしてる。 「なんで俺が……? 持ってたって、渋谷なんかに貸さない。」 冷ややかな返し。 『なんか』だと!? 俺がやった事は親切でも何でもなく、ただのお節介に終わる。 …………お前、いくらなんでも、その返しはないだろ。『渋谷なんか』って…… 渋谷の顔が曇る。 …………絶対に誤解した。 「あー。大丈夫。今日、温かいし……くしゅっ!俺、もう行くね。」 少しシュンとしてから、渋谷はバタバタと行ってしまった。 余計な事しなきゃ良かった…… クルッ。 上條の方を向き、軽く睨む。 「おい。今の言い方、なんだよ。 『タオル、持ってない。』とかでいいだろ。」 ちょっと頭にきて、そう言う。 「…………タオル、持ってたよ。」 「なら、貸してやればいいのに。」 「俺、今日、汗かいて使っちゃったから、貸すのは……その……」 呆れた…… 不器用にも程がある! 「言い方には気を付けろよ。 渋谷、あぁ見えてデリケートなんだ。」 「……………お前、彼女いるよな?」 ジト目で見られる。 上條、お前もか…… 俺は友達を心配しちゃいけないのか……? 「いるけど?付き合いたてのラブラブですげー可愛い彼女が。」 ヤケクソでそう言ってやる。 「…………ふぅん。」 上條はため息をついてから、さっきまで渋谷がいた花壇を見つめた。 肩が落ちてる…… あまりに切ない顔をして窓の外を眺めてるから、俺はもうそれ以上文句が言えなかった。

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